「また事件だあ?」
すっとんきょうな声を出した野次馬に向かって、正義漢は、しいっ、と人差し指を口にあてた。
「大きな声を出すな。内密な話なんだから」
教室は休み時間の喧騒で、級友たちはあたり構わずわあわあと喚き散らしている。この状況ならひそひそと話す方が怪しまれる気もするが、と野次馬は思ったが、ここは話題を持ち合わせている正義漢の意見を尊重することにした。
「別にびくつくことはないよ。盗難なんて珍しいことじゃないだろう?明るみになっていないだけで」
出来るだけ声を小さくして言う。
「そう、珍しいことじゃない。だから今までのことも一々取り沙汰されなかったんだ。でも今回は違うらしいぜ。みてな。間もなく教師が集合をかけるから」
正義漢の言葉通り、教師達がぞろぞろ現れて全員校庭に集まるように、と指示を出した。教室の喧騒が異常事態を察知して静まりかえった後、爆発した。
正義漢は眉を少しひそめた後、「来い」と野次馬の腕を取って走り出した。校庭ではなく、屋上に向かって。
「どこに行くんだよ!」
「君に意見を貰いたいんだ」
二人の背中は喧騒から遠ざかっていく。そして、終わりの始まりが始まろうとしてる。
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