私は自分を奮い立たせる思い出を持っていないし、また、持つ必要などないと考えている。しかし持っていたことはあった。そしてその偉大さを知っていた。
だから、過去に思い出を持っていない時よりも幸せだと思った。自分の矮小さを知っているぶん、幸せだと思った。
思い出のぶれと同時にぶれて、何かに掴まっていなくては四肢を地面に貼り付けてしまうような、そんな自分がいることを、今の私は知っていた。
それから私は、何かがあるたびに想像することにしている。好きだった級友に手を握られ圧倒されるシミ先生と、柔らかい軍手の感触。それから、チョコレートの包みをあける音。5円を模したそれを、口に入れる様子――。
シミ先生は爪の先まで気を遣っている子が好きだ。
スカートの丈さえ少数派を保つ私は、シミ先生の目にどのように映っているのだろう。
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