「…………あの、さっきはノート、ありがとう」
「いえ」
ごうんごうん、エレベーターの起動音がしている。沈黙。息苦しそうに不安そうに鞄を持ち変える腕。沈黙。手元に落としたままの視線。固定。話さない。「話せない」。私は何も言わない。ごうんごうん、私は知っている。追いかけてきたのを知っている。ごうんごうん、でもなにもしない。だからなにもしない。思わせ振りなことなどしない。知らないふりもしない。それがただの好意だと知っていても、私なにもしない。私には他人の好意を受け入れる権利など――ない。
『かっこよかったよお疲れ様!』
嗚呼、私が恐れているのは、本当に彼女なのだろうか。
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