「みかなちゃん驚かないでくださいね。なんと僕は明日、お昼時の修道院の鐘ががんがん鳴り始めるころにどろんと教室から消えてしまいます。みんなが段々眠くなり出す四時間目の真ん中くらいだけれど、鐘の音に吃驚して起き出すのです」
「なんで消えてしまうの?保健室へ行くの?」
「違います。僕の身体はいたって健康体ですもの。ただ、頭がどうかしてしまったみたいで、だからそれを治すために、試しに消えてみるんです。」
「頭はがおかしくなってしまったって、私には充分正常に見えるけれど」
「いいえ、そんなことはありません。断言できます。それはみかなちゃんが一番よく知っているでしょう?白々しいことをいっちゃあいけませんよ、嘘つきは天国へ行けませんから」
「みかなちゃん、僕はあなたを迎えにいきます。だいたい10日位して僕が過去の人になったら、明日のお昼時どろんと消えるのとおんなじように、どろんと現れてあなたを連れ去ってしまいます」
一つ言いたいのは、これは決して顔を見合わせた上での会話でないということだ。突き詰めれば回路の詰まった箱と箱との間の記号のやりとりであるメールの会話であった――だから彼女は僕という不愉快な一人称と、媚びたような敬語を使っている。
実際の彼女はふざけたことの出来ない馬鹿のように真面目な性格を「していた」筈で、また、私に話しかけるような甲斐性も無かったのだ。
そして次の日、彼女は宣言した通りに教室からどろんと消えてしまった。さらに十日経って、やっぱり宣言通り彼女は私を連れ去ったのだ。
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