欲求不満と好奇心と人恋しい、の境界がとけた。
「噛み付かせてよ」
その言葉は、その言葉の意味失い、現実味を奪っていた。あの時と同じだった。
(私はどうしてしまったのだろう。彼女以外の人間にそのようなことを思うなんて。まるで私が本物のようだ。)
腕をぐいと引っ張って、椅子から引きずろうとした。三秒後に自分の本意に気づき、戦慄した。
(違う、私は寂しいだけだ。人恋しいだけだ。甘えたがりなだけだ)
彼女は、今日は席についていなかった。珍しいことだ。
私を遠ざけるためかもしれない。だとしたら私の作戦は成功したことになる、それなのに私は、「ねえ、ねえねえ――……」「なーに」「なんでもない」
「ほら、あっち向いてなさい」
頭をつかまれ、ぐるりと顔を向けられた先には、彼女がいる。机二個分くらいの、笑顔。(なんで私に近づくの)
やめてよ、やめてよ、と喚く私と、不審そうな彼女の、視線がするりと滑る。摩擦係数零、ただの偶然。なのになのに、それ以上の意味を見出してしまい私は動揺した。
(やめてやめてやめて、今は君が怖いんです。分かっているんです。君は星に何か何か言ったのでしょう、だから君は余裕があるのでしょう、いつもと違うことをするのでしょう、だからわたしはわたしはわたしは)
「ねえ、噛み付かせてよ!」
友人Aが代替人である筈は無い、でも今の私には、間欠泉のように吹き出る好奇心を彼女にぶつけることは出来ないのだ。
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