気持ちが悪かった。人間との肉体的な接触が。
特に幸せやJのような、ホモ・サピエンスとしてではなく人間としての生理的行動を連想させるような触り方は。
Kは大丈夫だったところを見ると、もしかしたらそれだけではなくて、もっと根本的な嫌悪があるのかも知れなかったが、それを言語化することは危険だった――認識は災いだ。知らない振りをするのが正義とは言わないまでも、最善だと学んだばかりだから。
「来ないでよお!」
幸せは追いかけてくる。話しかけてくる。どうして放っておいてくれないのか。どうして干渉するのか。恒久の関心なんて無いくせに、べたべたとして、生々しくて。
自分が人間だと自覚してしまいそうになる。それは嫌だった。人間である以前に、**の*の*の****でいたかった。
「来ないでったらあ!」
やめて、やめて、私に近づかないで。
飛び込んだ教室には彼女がいた。
指先に触れた髪からは、生々しさも人間臭さも感じられない。それは彼女が人間でないからなのか、もしくは、人間であるあまり匂いが分からないのか、冷静でない私には考えることが出来なかった。
ふくんだように(被虐的に言うなら、若しくは馬鹿にしたように)笑う。「笑われちゃったあ」。私は返事を求めていない。彼女も何も言わない。髪は柔らかい。彼女は、珍しく機嫌が良い。抱きつく私に、なに、と問う。私は黙っている。彼女も、黙っている。
何、と問われた答えを私は持ち合わせていない。ただこの不愉快な気分を癒してくれるのは彼女だと、私は根拠のない確信を持っていた。そしてそれは事実だった。
いつもと同じ蝸の時間が流れる。私は、やっぱりそれを甘受するしかない。
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