ふわり、と手を前に出して左右に振った。
「なに?」
体育の後の、赤い顔をして一人で座っている彼女の頭に手を伸ばすと、汗かいてるから、と手を避けて背中を倒した。
その椅子は教室のものとは違って背もたれが無いから、そのまま倒れてしまうのを妨げられない。そして構わず手を伸ばすと――それは加虐癖や肉体的接触願望というよりも、単純な好奇心からだった――そのまま彼女は連なった椅子に倒れこむように倒れる、かと思われたが、意外なことにするりと足の隙間を縫って零れてしまった。それも微動だにせず。(漠然と、案外腹筋がある、などと思った)
「何をしているの?」
「頭を撫でようと思ったら、汗かいてるからって逃げられちゃったの」
普通に答えないでよ、と笑う友人。
彼女は私の傍にはいないで、ぼうっとしている。バスケの試合で目に付いた、彼女のチームの駄目なところを教えたかったが、なんとなくおこがましい気がしてやめた。(それは欠点を指摘するということがか、彼女と話すということがか、よく分からなかった)
友人と私と、それから微妙な位置に彼女が一人で立っている。おなかが痛い筈だったが、そんなことより私は私のことで精一杯だった。持っていた教科書で足を引っかく。分からなかった。私といることが駄目なのか、それとも自分の意思だったのか。(ただ、いつも被虐的なことは大抵杞憂と被害妄想に終わる) 星は、優しい子だ。だからきっと人を非難しないのだ。
(にげないで)
(ひとりにならないで。おなかがいたくなっちゃう)
考えていることはいつも二つだけだ。それをどう誤解されようと、私は何も言わない。だから、他人行儀な愛が欲しい。だから、早く離れたい。そう、仲良くしたくはない。むしろ、私はそれを恐怖している。足がかりも好かれることも、私にとっては同義なのだ。
だから、たとえそのことで私が痛々しく見られようと、そういうものだと享受するだけの自我と勇気は、残さなくてはならない。そしてそれは様々なものを捨てることにより、残すことができた。
気がつくと、彼女は勇敢にも出来上がっている閉塞した三人の世界に入ろうとしていた。
PR