飛鳥は黙って唸っていた。
「で、結局ヤツとは付き合ってるわけ?」
「分からない」
うーん。今度は私が唸る番だった。
暫く黙って、それからぽつぽつ話す飛鳥は2月から変わらないようにも、変わったようにも思えた。
あの閉鎖空間ではこのような話をする機会も無いわけで、つまりは私は貴重な人間なのかもしれない。それは驕りというわけではなく、というのも、飛鳥自身も特殊な人間であり、そのように貴重な人間であるということが、必ずしも肯定的な事実ではないからだ。
「……というか、あの話の意義も分からない」
「なんか、曖昧だったよね。条件が」
付き合う、付き合わないの話では無かったから、結局なあなあで終わっている。気がする。幸せはどう思っているのか知らないけれど。(そういえば、私もそうだった!)
飛鳥は幸せなのだろうか。幸せなのは、文字通り幸せだけなのではなかろうか。
何か引っ掛かる発言がある度に鞄に顔を埋める飛鳥は、なんだか可哀想だ。それは私の干渉すべきところではないけれど。
「私は、言うほど愛されていない気がする」
確かにそんな気がして、私はまたうーんと唸った。「そうかもしれない」
しかし、だからといって私がとやかく言うことは出来ないのだ。これは二人の問題で、二人がよいなら良いのではないか。でも実際一人は幸せでなくて、片方は幸せで。私はそんなの絶対に嫌だけど。だからこそ四月はこういう道を選んだのだけれど。
『わかれちゃえば』――その言葉をぐっと飲み込んだ。言ったところで効果はあまりないし、飛鳥からは絶対に切り出さないと知っていたのだけれど。
「だってね、『愛が欲しい』とか言うくせに、いちゃいちゃしたくないんだってさ」
私は「愛が欲しい」などと大真面目な顔をして言う姿を想像して、酷く笑ってしまった。
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