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それでも君を*****。

(愛か恋かも分からないけれど)

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7月27日 投影

「気まずい」
「どうして?」

数学は笑った。
何故だか自分を見ているような気がして、私は数学に対して嘘を吐くことはしないだろう、などとぼんやり確信する。「他人の言うことなんて気にしなければ良いんですよ。気にしなければ。」どちらかといえば自分に言っていた。

虫が泣いている。夜独特の音がしていた。

つい一分前、「空気を読むよ」と言ったドラムと、それからそれを肯定し、囃した旧友たちを思い出す。皆一様に本気だなどと思っていないし、それは私とて例外ではない。要は面白がっているだけなんだ皆は、と、私は初めて愛情を込めてその言葉を使った。

「熊はね、ドラムに送られたがらないんです」
「熊が?」
「そう。ほら、いつもみたいに、にこにこ笑って言ってました」
「そうなんだ」

いつもは熊とドラムとのぼる坂を、今日は数学と歩いてる。
脇の神社からは虫の鳴き声がする。じいじい、泣いている。

皆お互いの近況など、恐らく触り程度にしか知らない。しかしそれでも私達を繋げている、確かな絆がある。かつて同じ場所にいて共に支えあったという事実が、私達を繋げている。だからこそ、私達はここにいられる。ここには諍いも無ければ策略も無い。
それを嘆くかのように、虫たちは泣いている。知っているのだ。その微妙な距離感が崩れたときどうなるのかを。

私と数学は、それを微かに揺らしてしまった。まだ崩れない。しかし、もしかしたら、いつかは。
きっと工業はそれを感じ取ったのだ。


私は、出来上がったアルバムを受け取る先生の姿を想像していた。そして、その後のことを考えていた。
私は、それでもきっと、何も言わずに数学と出かけるからだ。

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8月3日 戯れ言



海に行きたいんです
そして貝殻を拾います
できあがった首飾りを
持って九月に学校に行きます

だいたい君は紙一重ですよ
井伊直弼が言っていました
スルメがスイカになるのかって
君がかつてしてくれたように
とりあえずは見ない振りを続けます

いっぱいの貝殻をあげます
いっぱいの首飾りをあげます
罪の意識など無意味だと知っています
月は今日も綺麗です
計画的ではないので
真っ直ぐなあなたには
すぐに負けてしまうのです




私は笑ってぱたりと携帯電話を閉じた。
全く皆、無意味なことを考えるのだけは得意なのだから。

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8月3日 それはきっと現実じゃない

※※※ちゃん。
私が呼ぶと、彼女は少し笑って顔をあげた。
「久しぶりだね――暫く顔を見てなかったよ」
「そうだね」
「何か、あったの?」
単刀直入に切り込まれる言葉。敢えて疑問系にしたのかもしれないが、何かあったからこそ此処にいるのだと、彼女は分かっていたに違いない。彼女は私のことを大体把握しているし、私もまたそうであった。「まあ、色々とね」

「たしか、最後に会ったのは五月三十一日だよ。それっきりで一度も会っていないから、結構私は知らないことが多いと思うけれど」
「それは私もだよ」
「そういえば昔言っていたあの本だけど――」
世間話を暫くすると、あっと言う間に時間は過ぎていた。窓の外は真っ赤になっている。
せかいのおわり、などと言う言葉が頭をよぎった。

もう世間話の種も尽きて、沈黙が訪れた。そっと荷物を纏めながら、私は言った。
「そういえば、何回かあの子にあったよ」
「そう」
それだけ言うと※※※ちゃんは黙った。ただのつけたしでは無くて、これが本題なのだと気づいたはずだった。
しかし、だからなんだ、とも言いたげで、これがあるべき姿なのだと私は無理矢理納得させる。
君を好きな子じゃないか、純粋に君を好いているあの子に対して、何か一言あっても良いじゃないか――喉から出かかった言葉を飲み込んだ。私はあの子の肩を持ちすぎているだけで、※※※ちゃんは何も間違ったことをしていないのだから、そんな言葉は見当違いも甚だしい。


あの時私が何も気付かなかったことを、※※※ちゃんは今でも怒っているのだろうか。私はふと思った。
何も気付かずに不用意に彼女の話をして、※※※ちゃんは傷ついていたのだろうか。今となっては何も分からない。ただ、※※※ちゃんは分かりにくいのだ。世間一般の人間が※※※ちゃんに対して抱いているイメージとは反対に、感情を全く発露しない。

『そんなに深く考えなくて良いよ』
『違う。君が本当に本気なら、私も真面目に考える』

しかし、気づいたからといって、私に何ができたのだろう。※※※ちゃんのあの二面性に常々恐怖を感じた私に、何が出来たのだろう。言葉遊びで人を惑わしていた※※※ちゃんに、何を出来たのだろう。はっきり言わないで、人に確信を持たせないようにしていた※※※ちゃん。決定的なことを何も言わない※※※ちゃん。私は常に吐きそうな不安を抱えていて、それで何が出来たのだろうかと――何も出来ないに決まっている。


「また会おう」

※※※ちゃんはそれだけ言うと席を立った。


そうだ、きっと私は※※※ちゃんが怖いのだ。昔も、離ればなれになった今も、常に私は見えない束縛を受けつづけている。

夏になってから全く思わなくて、むしろそれを嫌がっていたのだが、その時初めて私は、彼女の顔を見たいと思った。
当然だが、※※※ちゃんは彼女に似ていた。

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8月10日 ブルーベリーの魔法

「『ラブイズブラインド』」

シミ先生ならLove is blind.と綺麗に発音するかもしれない。(実際私は発音を聞いたことは無かったから、あくまで推論だけれども) はっぱ先生なら、らぶいずぶらいんど、と片言で言うだろう。
せめて片仮名であって欲しい私の発音は、現実味に乏しいこの言葉を表すのに持ってこいだ。


「ねえ奈良。盲目なのは生まれつきなのかな。それともある時目を潰されてしまったのかな」
「目を潰されてしまったんだよ」
「恋は目を潰すのかあ」
「そう、女の子は恋をすると魔法が使えなくなるんだよ?」

奈良は揶揄するように言った。

女の子は皆魔法使いなのだ。魔法を使って皆を惑わす無邪気な存在。ところがある時から無邪気でいられなくなる。知ってしまってからはそれが出来なくなる。何も見えなくなる。
そして女の子は少女になる。

「いつかまた、目は見えるようになる?」
「見えるようになるよ。いつかはきっと」


次に目が見えるようになったとき、少女は女性になっている。
しかしその時、魔法を使うことは出来ない。

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8月13日 旗折り警戒人

「変なの。厭なら最初から関わりを持たなければいいのに」
ワタヌキは歯切れ良く言った。
「まあでも、状況ってものがあるらしいよ」
ついでにそれは不可避らしい、と私が嘯くと、ワタヌキは不満そうな顔をして、そうかな、と呟いた。
「不可避といったって、避ける努力をしたようには思えないけれど」
「私は事情を詳しく知らないからなんとも言えない」
コーヒー・ゼリーをスプーンで掬いながら私は、ワタヌキの意見は至極尤もだと思っていた。しかし同意するわけにはいかなかった。それは、友人の否定を意味した。
「『人は人。私は私。』だよ」
「そうだね」
ワタヌキは渋々、と言ったように頷いた。その言葉は思考を停止させる、ある意味最も危険な言葉だと分かっていたが、お互いそれに関しては何も言わなかった。
真っ直ぐな人間は好きだ。だから私はワタヌキが好きだ。



「要は、強い否定は強い肯定と表裏一体なんだと思うんだ」

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7月26日 鏡


それでもワタヌキは表情を変えなかった。歯をくいしばって、眉を寄せて、何かに耐えるようにじっと一点を見ていた。
何か一言言ってやりたい。私はあの涼しい顔を思い浮かべた。それはワタヌキのためである以上に、自分のためでもあった。

なんでやつなんだろう。なんでわざわざやつを選んだんだろう。いや、私は本当は、その理由を知っている。


「そうか」
ワタヌキは急に力を抜いて、どこか空を見た。
「どうせ――おまえは知っているんだろ」

ばしゃり、と冷水を浴びせられたような気がした。
なにを、と私は衝撃でまわらない頭を必死で回転させる。ワタヌキが感情をストレートに言葉に出したのは、初めてだった。


「知っているんだろ。全部聞いているんだろ。それで二人して私を――笑っているんだろ」


ワタヌキに、私の言葉は届くのだろうか。果たして、本当のことを話したとして、それをワタヌキは信じるのか。当然の疑心暗鬼で固められたワタヌキは、自分で出した答え以外の事実を受け入れるのか。

「それはないよワタヌキ。私はワタヌキが思っているほど、仲良くない」
私は私のことを話すけれど、話されたことはないんだ。二人とも、ワタヌキを笑ったことなんてないんだ。それは本当だよ、ワタヌキ。信じて、ワタヌキ。いや、でも今のワタヌキは信じない。だとしたら、私の言葉はなんの意味も持たない。言葉の無力さが身にしみて、私は泣きそうになる。

怒鳴られることに、耐性はあるのに、罵られても、泣きはしないのに、淡々としたワタヌキの言葉は心を抉った。それはきっとワタヌキが鏡で、私を、私の目下にさらけ出してしてしまったからだ。


「……すまん。最近疲れていてね」


ごめん、と謝ってワタヌキは背をむけた。その背中はとても小さく見えた。
引き止めたい衝動に駆られたが、私は一歩も動くことが出来なかった。

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8月13日 猫の舌と抽象論③

「かまをかけたんだ」
「かま?」
「誕生日にね、『大好きです』ってメールした。分かっててメールした。その返信がね……うん、やっぱり、かかったなあって」
「……」

不思議と心は冴えていた。怒りもわかなければ、悲しみもなかった。

「しってる。私はね、誕生日のお祝いをするために、その時辛さと一緒にいたんだ」

今でも覚えている。

「丁度お昼ご飯を食べているときで、辛さは凄く喜んでいたよ」

奈良からメールが来た、それだけで、ポーカー・フェイスである辛さの口角が微かに揺れた。
スクロール、スクロール。私は、料理と辛さを4:6で見守る。スクロール。そして辛さは液晶から目を離さずに言った。


「……それで、むしろ私がテンション上がっちゃってさ。料理とか、全部奢る勢いで……ね、いたんだよ!」


わざとらしく面白い声を出したが、奈良は黙っていた。しん、と沈黙がのしかかって、それを誤魔化すようにばたばたと足を動かすと、余計に夜がクリアに部屋を包む。ああ、  。奈良と彼女が一瞬重なって、コップが揺れて水が零れた。ぱしゃり。ああ、折角忘れていたのに。 彼女、ワタヌキ、雀、飛鳥、幸せ、黄色、ドラム、心臓、星。
慎重にコップを元の位置に戻して、慎重に水滴を拭いとる。慎重に慎重に言葉を発する。そうでなければいいと願いながら。

「……面白がっていたの?」

脳裏には沢山の人間が焼き付いていて、フラッシュカードのように今も点滅していた。円周率、狐、雀、飛鳥、幸せ、黄色、アート、そして、辛さ。

「……目的を達成したときの、達成感はあるけれど、そういうことでは、ないよ」
「うん、そうか。ならいいんだ、ならいいんだ……」

達成感と面白がりの違いも、善意と悪意の違いも、他人行儀と他人の違いもわからなくて、私はただ奈良を、悩み多き人間だ、と思うことにした。それ以外の形容はできなかった。「彼女もかまをかけたよ、奈良だけじゃない、奈良だけじゃないんだ――」 。それは全く褒められたことではないが、奈良を責める気にはなれなかった。
今はただ、奈良が面白がっていなかったことに安堵するばかりで、それ以外のことは至極些細なことに感じられる。


「わかっちゃうんだよ。私。もう、『特技は人間観察』って言ったほうがいいや」
「知っていたの、その、辛さが、?」
「なんとなく思っていたけれど、確信はなかった。メールではっきりしたんだよ……」




スクロール。長いこと画面を眺めた後、画面から目を離さずに、深く溜め息を吐いて辛さは言ったのだ。

「長かった」

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7月25日 半面鏡、詩は月の中宮

「…………あの、さっきはノート、ありがとう」
「いえ」

ごうんごうん、エレベーターの起動音がしている。沈黙。息苦しそうに不安そうに鞄を持ち変える腕。沈黙。手元に落としたままの視線。固定。話さない。「話せない」。私は何も言わない。ごうんごうん、私は知っている。追いかけてきたのを知っている。ごうんごうん、でもなにもしない。だからなにもしない。思わせ振りなことなどしない。知らないふりもしない。それがただの好意だと知っていても、私なにもしない。私には他人の好意を受け入れる権利など――ない。




『かっこよかったよお疲れ様!』





嗚呼、私が恐れているのは、本当に彼女なのだろうか。

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8月26日 8月のバレンタイン・デイ①

「――それからは辛いことがあるたびに、手を包んだ軍手の感触を思い出していたというわけです」
シミ先生の話は、「皆さんも、『これを思い出せば耐えられる』という思い出を作った方が良いですよ」という言葉で締め括られた。

今日はシミ先生の誕生日だった。毎年祝って貰えないという話を各地でしたら、郊外の校舎の生徒が高級ブランドの品と寄せ書きをくれたとか、一方此所の校舎はバナナ一本だったとか、そんな話を面白おかしく、ただし淡々と話していた。シミ先生はヤマ先生と似ている。

シミ先生は、べらぼうに頭が良い。冷たい。声が高い。未婚。三十路一歩手前。だが残念なことに、女子高生が好きな変態だ。(最もそれは、本人がそう言ったわけでは無いけれど)
唇と頬に色を入れて、爪の先まで気を遣っているようなそんな子が好きらしい。

演習時間ふとシミ先生を見ると、もくもくチョコレートを食べていた。この教室の教卓の上に、リボンをかけられ、ぽつねんと乗っていたものだ。「なんですかこれは。『ご縁がありますように』?これは未婚の私に対する嫌味でしょうかね」。
授業中だろうが何だろうがお構い無しで、それで怒られはしないのだろうかと思ったが、そうだ、シミ先生自身が言っていたように、シミ先生は偉いのだから、きっとそんな心配は無用なのだろう。食べる姿がなんだか栗鼠みたいで案外この人は幼いのかもしれないと思った。
「二条さんですか?…………奈良さん……ではないですよね」

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2月13日 バレンタイン・クライシス

「まあみててよ!」
私は二人の友人の前で、空っぽの箱を逆さにし、机に軽く叩きつけた。箱を持ち上げると、
「……50円」
の形を模したチョコレートが机の上に鎮座している。底蓋の下に隠されていたわけだ。
「君のそーゆーとこ好きだよ!」
「ありがとう」
私は箱に向かってにっこり笑った。彼女は、なんと言うだろう。ジョークは通じなさそうだが、少なくとも礼は述べるだろう。楽しかった。それは、彼女への贈り物を作ることがか、創作することかが――おそらくどちらもだ。私は終始口角をあげながら、明日になるのを待っていた。


しかしその時はすでに状況が動いていたわけで、今ではその白々しさにぞっとするばかりだ。
(しかし知らない方が幸せなこともあるのだ、と私は学習する。)

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