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それでも君を*****。

(愛か恋かも分からないけれど)

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9月25日 嫌悪感

昔、私には嫌いな言葉があった。いろけづく、という言葉だ。それに近いニュアンスを含んでいる言葉も嫌いだった。にきび、声変わり、胸、**、**、***、等々。正確に言えば二次成長的なものに嫌悪感を感じたようで、性的なものへの嫌悪は、その中に含まれた。

話題にすることすら嫌だったが、それ以上にそれらを指摘されることに、強い羞恥を感じ、そのたびに、その場から逃げ出したい気持ちにかられた。耳にすることすら嫌だった。

そのようなものへの嫌悪は誰にでもあるものだとわかっていたし、実際そうだったのではないかと思う。しかし私のそれは、いささか度を越していた。
色気がある人が嫌いなわけでも、そのような言葉を発する人が嫌いなわけでもない。厭なのは言葉そのものとそれに内包されるイメージだ。いつだって人に罪はなかった。

成長して、段々そのような言葉に慣れていった。
しかし、その代わりに別のものに苦手意識を感じるようになった。変化だ。

石鹸の匂いしかしなかった級友から香水の匂いがしたとき、化粧っ気のなかった級友にアイラインを見つけたとき。私は見てはいけないものを見てしまったような羞恥と、形容し難い気まずさに襲われた。それは、要素がその人に定着するまで続いた。
子供だったものが周囲や異性の目を意識して性を含んだ大人になるそのプロセスを不得手と感じるようだった。

それは、自身に対しては一層強かった。だから適当な理由をつけてスカートは膝下を保って、いつまでも丈の短い靴下を履いて、なんとかそのような変化を悟らせないようにした。しかしだからといって、私は授かった性が厭なわけでも、性別を変えたいわけでもなかった。むしろその一方で、本当は短くて可愛いスカートを履きたいし、綺麗なピンで髪を留めたい、などと思っていたのだ。
今でもそのジレンマに襲われている。

きっと私のジェンダーは「少女」で、私は大人になりきれないだけなのだ。

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9月28日 透明人間

それは最早病気かもしれなかった。
わからないのだ。彼女が誰に向かって話しているのか。
オアシスが言葉を救って代わりに返事をして、曖昧に首を傾げて、私は溜め息をついた。
(わからないんだ。目があったのかどうかも)
視線、言葉、内容、角度、表情、状況。その他諸々の条件を考慮して、それに合致するのが私しかいないと分かっていても、それでもわからない。目があっていても、その事実を認識することにひどく時間がかかった。


「風邪ですか」
「うん、熱が出てね」
話しかけるぶんには普通であるところを見ると、やっぱり認識する私の側に問題があるのだろう。しかし決定的なことに思いあたるには至らなかった。だから単純に、私はそのように扱われ慣れていないだけだということにしておいた。

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9月28日 血の欠片

咳をして座り込んだ私に彼女は言う。
「無理して来ることはなかったのに」「そうだね」
学校は閑散としていた。私も、きっと来ないほうが良かったのだろう。――サンに会いたかったからね、という気障な台詞が頭をよぎったが、それを口にすることはしなかった。酷い嘘だった。「……部活、帰ってた」「ああ、帰されたねえ。後輩が皆感染しちゃって」「みんな?」「一つ下と二つ下が」「たいへんだね」
ああ、気まずいわけじゃない。気まずいわけじゃないんだ。それ以上でもそれ以下でもなくて、私は他人行儀に言葉を返す。そうしていると、彼女に許されたような気になってしまう。全てがなかったかのように錯覚してしまう。私は自分の甘さに泣きそうになる。彼女はいつだって私に対しては知らない振りを貫いてきたというのに、それすら忘れてしまいそうになる。昔戻れたのかと、その優しさも関心も、なんの代償もないものだと思ってしまう。無償のものなど、この世には存在しないというのに。その欠片を、また何かの中に探そうとしてしまうのだ。

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10月3日 腹を晒す

私は同じかもしれない。そしてそれは耐え難いことだった。

駆け引きのしかたなど知らないし、勿論対処のしかたも分からない。ただ彼女が、私に悪意を向けられている、と認識するようなことは、あってはならないと思った。憎んではいなかったし、勿論怒ってなどいなかったが、自分の態度を省みた時、彼女がそう受け取る可能性は零ではないなと思った。肉体的精神的に暴力を振るうことは許しがたい。仮に無意識だったとしても、それを言い訳にすることは最低の振る舞いだと信じている。そして何より、過去がそれを許容しないのだ。




「――サン!」
ふわり、と弧を描いて銀色が飛んでゆく。反射的に左肩に手を伸ばし、ぱし、と音を立てて彼女はそれを掴んだ。
「これなに?」
「ガム――あげる!」
「ありがとう」
に、と例の笑みで彼女は言う。私も同じような笑みをと浮かべる。苦笑でもなく歪でもなく、私は久し振りに彼女に向かって笑えたような気がして、気がつけば、あは、と声を出して笑っていた。
これで私は彼女に跪いたことになる。彼女はきっと元に戻る。その笑顔がどんな意味を含んでいても、彼女が何を思っていても、今はそれでいいと思った。私は、私の顔色を窺う彼女など、見たくはなかったからだ。

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10月2日 赦す

がしゃん、という金属音と、間抜けで明るい機械音を聞いてから、私は静かに歩き出した。吹き抜けのどこにも人は見当たらない。窓ガラスの向こうにいる事務の教師に会釈をしながら階段を上ると、どこからか消防車の音が聞こえてきた。

(私は、ただ恩赦が欲しかっただけじゃなかろうか。それも私でなく彼女の。)

ぷかぷかと雲が流れていく。灰色の雲が流れていく。放課後の校舎。誰もいない校庭。感傷が襲ってきて、鼻がつんとする。

(許すっていうのは、認めるってことじゃないのか。だとしたら、何よりも先に認めなければいけないのは、自分ではなく彼女のことだ)


私は木製の椅子にどさりと腰を下ろした。「おかえり」「ただいま」。もう、何も考えることなどない。そう思っていた。が、無意識にぼんやりしていたようで、黄色と幸せが、気にするな、と声をかける。気にしていない、と私が言うと、黄色は眉をひそめた。
「気にするな、いずれ良い思い出になるから」

大きな窓の外には、灰色の空が広がっている。この空を介して全てが繋がっているというのは、ただの比喩で、全くの嘘だと思った。私は首を垂れた。
「気にするな」「気にしていない」。
遠くで、皮肉っぽい声が聞こえる。私は、私に対してその言葉が肯定的に使われたのは、数えるくらいかしかなくて、大抵は蔑視と嘲りだったことをふと思い出す。やはり今回も同じだった。


「私は、人を好きにならないな――どうにも」
誰に、ということでもなく、ぽつり、と呟いた。
「彼女を好きだったときのように――好きにならないな――」


ただ一言、いずれ無かったことになるから、忘れてしまえ、と言葉をかけられて、私はとうとう泣きそうになった。だとしたら、今に意味なんてあるのだろうか。この気持ちさえも、嘘になると言うのだろうか。笑いあったことや、ぶつかりあったことも、みんな無かったことになるのだろうか。今を生きているのは、私だけだったのだろうか、と。


気にするな、と二人が言い、気にしていない、と私は返した。気にしているのはあちらのほうだから、と、ひどい真実を吐いた。

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10月10日 秋雨前線

今までの陽気が嘘のように、寒気が主張を始めていた。校庭には人がぱらぱらといたが、皆耐えるように長袖で肌を覆っている。そんな中半袖の体操着を着ている彼女は、案の定背中を丸めて、さむい、さむい、と繰り返していた。顔をしかめて二の腕を擦る。トレーナー、貸そうか。その一言が言えずに、れんしゅうしましょう、と声をかけた。

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10月5日 猶予

もしかしたら、何も分かっていなかったのかもしれなかった。

気持ちは一過性のもので、いずれなくなると暗に示したのかもしれないし、卑屈な謙遜をしたのかもしれない。今更分からないし分かる必要もないことだが、なんとなく、前者ではないか、と思った。太陽は言った。「彼女はきっと、ここまでだとは思っていないと思う」。そしてそれは本当だったのだ。

本当に私なんかでいいの、一年後に後悔するかもよ。そう言われて私は答えた。あなたでなくては駄目だし、尊敬しているのは、今のところあなただけだ、と。

彼女は彼女らしくないことを言った。今思えば、前日からそうだった。可か不可か以外について言及するのは彼女にしてはおかしなことだったし、私に必要以上に干渉するのも、彼女の性格を考えればおかしなことだった。しかしその違和感に気付いたのは、それから随分と経ってからだった。

私が言ったことは、確かに本当のことだったし、今も嘘ではない。しかし、と私は思う。

(彼女があんなことを言わなければ。私があんなことを言わなければ。今ごろ私は彼女に頂戴、と言って、彼女も私にいいよ、と笑顔で言って、それで私は桃色を手に持って、きっと笑顔で彼女に手をふれていたのに)


彼女は私に364日の猶予を与えた。その意図は、忘却防止の意味しか含まなかったに違いない。そしてその時は、お互いにそう思っていたはずなのだ。

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10月15日 ミイラの壺

人の目を見れないから、恐らく私は顔の表情に重きを置いていない。勿論視線に意味はない。判断は言葉と声と状況に起因していて、それで恐らく間違えて来なかった。だから同時に人の目を見れないわけで、要は人の機微に触れすぎるのに耐えられないということなのだろう。

(声音で――)
私は顔を伏せた。
(声音で分かってしまうんだ)

それが勘違いである可能性だってある。それが被害妄想の可能性だってある。だから、心臓は悪くない。心臓はただ噂話をしているだけで、なんの悪意も無いんだから。

それが事実なら当然の報いだが、虚実なら耐えられまい、と思った。それの特性上、尾鰭がつくのは確実であるのだけれど。知らない振りをすればいいだけだ、とポジティヴに私は思う。そしてようやく過去を濯げるのかと、曲がった安心をする。今を肯定する。

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10月14日 飴と無知

(めがいたい)

目薬を取りに戻った。当然だが私の席には彼女がいた。

床に膝をつく。鞄の中の紙袋を開ける。ピンク色の小さなボトルを取り出す。もう一つの鞄から小包を取り出す。ぐるりと辺りを見回す。教師の不在を確認する。袋を乱暴に剥く。飴玉を口に放り込む、と、ようやく一息つけたような気がして、私は小さく息を吐いた。口の中にじっとりと葡萄がの味が広がる。そして何の気なしに、私は私の席に座っている人間に意識を向けたのだ。それは紙が捲れる位のほんの一瞬で、何の含意もなかった。が、彼女はそれに呼応してしまった。

「ねえ、だいじょうぶ?朝はどうしたの?」

後頭部に言葉が振り掛けられ顔を上げると、真っ直ぐな彼女の目とかちあった。真っ直ぐ。二秒ほど視線に意味を持たせることに成功したが、他の人間と同じように、それを維持することは出来なかった。私は視線を下げ、事実を並べながら鞄のファスナーを開ける。「めが、はれた」

そう、それはたいへんだあ、かわいそうに、と台本を読むように彼女は言った。少なくとも私に向けられた言葉ではないと分かったが、そばにいた誰かに向けたわけでもなかった。ただ漠然と、事情を知る全ての人間に宣言したのだと思った。

そしてその時ふと私は、黄色が言ったことを理解してしまった。『自分に向けられるものには敏感だが、他人のそれは分からないんだ』。それを今彼女は体現し、私はそれに気づいてしまったのだ。恐らく彼女は、私が忙しなく動いている時にさえ「意識を向けらていると思って」意識を向けていたのだろう。私は曖昧に頷いた。

単に飴に関して自己中心的だった自分を恥じ、要るか、と差し出すと、いる、と礼を述べてそれを受け取った。妙に嬉しそうに受け取った。側にいた二人の分も置くと、「ねえ、賽子、ほらあ、――がくれたよお」


キャップに被せたビニルをはぎ取り、洗面台で目薬を注した。溢れた薬が頬を伝い、涙のように見える。きっと嬉し涙だ。気が付けば左目の痛みが、また主張を始めていた。


(ああ、めがいたい)

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10月15日 向上心

うう、と荒く息を吐く私に、彼女は大丈夫、と心配そうに声をかけた。(嗚呼、なんで出来ないんだ。なんで。なんで。)経験は間違えなく彼女以上にあるが、そのどれもあまりよいものではないのだ。自分でもそれには気付いていた。だが、それを補うのは鍛練しかないということも、痛いほど承知していた。(はじめてまとも以上の人とやっている――もう少し早くからあたっていれば)

五メートル先の彼女を見、右足首を二度回す。左足に体重をかける。息を静かに吐く。じり、と右足に力を入れる。神経を集中させる。そこでふと、目の前を横切るエースに、思い立って声を掛けた。
「エース――ちょっと見て貰えませんか――」


二三の言葉を貰い、チャイムと同時にどうにか形になった。


荒く息を吐いて蹲った私に彼女は近づいた。だいじょうぶ。背中にべたりと触れる。それはとても長い時間に感じられた。実際それは長かった。違和感を感じるほどに。何かを考えるべき事実のはずだが、しかし残念なことにそれは余りにも些細な問題で、私の頭を占めているのは全く別のことだったのだ。
「……つづかない」
「それは何度も走ったからだよ」
明るく慰める彼女の顔を見ずに、私はやはり全く別のことを考えていた。「走りきれるかな」
だいじょうぶだよ、と相変わらずからりと言う。私は私の頭と会話をしていて、彼女の言葉に機械的に返事をしていた。昔のように。ワタヌキのように。

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