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それでも君を*****。

(愛か恋かも分からないけれど)

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10月16日 ラスト・ダンス/戦友

「また会おう」

一通りの話をしてから、彼女は言った。私は黙って頷いた。次に会う時はトラックの、赤いコーンとコーンの間だ。何の会話も無しに別れる。そして別れると同時に繋がる。

一度無造作に背中をむけかけて、私は四ヶ月ぶりに彼女に向かって右手を伸ばした。彼女は全てを了解したかのように笑って、しっかりと私の手を握った。言葉はなかったが、恐らく考えていることは同じだった。
彼女の手は大きくて、何でも掴めてしまいそうだった。

走ろう。疾風のように。かつて彼女が指摘したようにできるかは分からないけれど。今は、私の全てを懸けて走れるような気がした。

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10月16日 ラスト・ダンス/自負

恐ろしくスムーズに体がついてきていた。スピードが足に乗る。床を、蹴る。蹴る。走る。走る。走る。身体がしなる。加速。加速。嗚呼、楽しい!練習の賜物だ。これだから陸上競技は止められない。もっと、速く。速く!
(ひとり め !)
コーナーの前に躍り出る。(つぎ!)
ぐるりと曲がる。曲がる。前方に二人。そしてその先には――
私はくしゃりと頭を振る。そして皮肉にも、こびりついた十八年と安堵が、私の足を緩慢にした。

ず、と手を滑る紫色。時が止まる。
(ああ、しまった)
が、最悪のヴィジョンは現実にならず、彼女の指が、つかむ。掴む。掴んだ。

(走れ!)

ふらりと減速しながら、私は思う。走れ。走れ。誰よりも速く。抜かしてしまえ、みんなみんな――!


「――サン!」
願うように叫んだ。

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10月16日 ラスト・ダンス/追跡

今日もそれは私についてきていた。

いつも、ふとした瞬間に存在を感じるのだ。誰もいない水場、人の集まった体育館、放課後の校庭。会話の切れ間。それはどこにでも現れた。
それは輪郭がぼんやりとしているが、確かにそこにいて、私をじっと見ていた。意識を向けようとしても、上手く出来ない。私はそれを認識するのを、無意識に避けていた。

そして今日もそれはいた。それもいつもよりずっと近くに。私の背中にぴったりとはりついて、身動ぎせず佇んでいた。

私はそれから意識を逸らすために、大声を張り上げる。がんばれ。がんばれ。

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10月16日 ラスト・ダンス/懐疑

どうにも、君に頼んだのが悪かったらしい、と呟くと、もしかして私のせい、とオアシスが驚く。まさか、と大袈裟に否定して、肩を竦めた。「『友達』なら、誰に貰ったっていいんじゃないの」

例えば私が元いた運動部で、雪国先輩と朱鷺先輩に頼んだとしたら、それは非難されて然るべきだ。しかし、今の部活なら話は別だろう。(部活の温度差、というやつか――貰う、という意味合いは全く違うから)
ましてや、クラスメイトなら、どうだろうか。いや、それは非常に例外的な話で、そもそも答えなどないのだけれど。

「そうでなくたって、君と彼女じゃあ、意味合いが違うことくらいすぐに分かりそうなものだけど、」


『自分に向けられる気持ちには敏感だが、他人の気持ちはわからないんだ』――また、その言葉がちらついて、それを振り払おうと躍起になる。珍しく与えられた言葉だが、まだ、そんなことは無いと信じていたかった。


「よくわからないね」
「よくわからないな」
情報に確信が無い以上、それ以上は言及出来なかった。ただやはり、後ろ指を指されることなど、したくはない、と思った。

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10月16日 ラスト・ダンス/欠如

頑張ってね、と彼女が声を発した。わたしにいっているの、――さん。――ちゃん、次でしょ、競技。チョコレートが喉に貼りつく。べたり。彼女が笑う。にこり。何かを言いたくて顔を向けると、彼女の横顔とかち合った。目を細めて口を開く私はひどく焦っている。くらりと目の前が歪む。

「――さんも――」

(「がんばってください」)

くらり。
被せて梨の声がする。「アップ、しよう」「――ああ、しよう」。弾けるように立ち上がる。景色が時間を持ちはじめる。(行こう、狐。)優先したのは義務と自負と正義感で、視界の端に背中を見ていた。

からり。茶色の小箱が膝から落ち、それを拾わず私は去った。

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10月16日 ラスト・ダンス/サイレンサー

観客席は閑散としていた。

遠慮がちで配慮のある私の後輩は、きっと今は来ない。そして人に厳しい彼女は、一列前で身辺整理をしている。
ペットボトルの蓋を捻りながら、私は漠然と狐と良心の話を反芻していた。能動的な二人に感謝をしながら。私の後輩に思いを馳せながら。



「――さん」

「――――なに?」

その声と間の開け方は、話しかけられることを予想していたニュアンスを含んでいた。
「後輩さんに頼まれましたか?」
「一つ――一個下に――ね」

斜め下を見ながら話す。最後に目を見る。身体を動かす。笑みを貼り付ける。意味と含みとシナリオのある会話をするとき、彼女は特にそうだった。用意していた言葉を間を見て打ち込むような。そして相手の言葉を待つ。

私は、そう、と会話にサイレンサーで終止符を打ちこむと、また例の話を反芻し始めた。が、あまり頭に入って来ず、気がつけばぼんやりと別の思考が侵食してきていた。

(なら、いいじゃないか。無理をしなくても。嫌いな人間に貰われなくたって。彼女を好きで、彼女が好きな人間がいて、頼まれているなら、それでいいじゃないか。)


――サン。と何かを言いたくて声を発したが、運悪く旧友の声と重なり、一歩退いた私はそのまま遠くへ去っていった。そして言いたかった言葉も、どこかへ去っていってしまった。
(恐らく私はもう、全力で走ることができないのだ。だから、嗚呼。私はただ、)

(私はただ、あなたのおぼしめすままに)

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10月16日 ラスト・ダンス/道化師

後で後悔するよ、行きなよ、と、何も知らない狐は私に言った。好意から来るそれは、単に過去と今を繋ぎ合わせただけのことだった。「ほら、そこにいるよ!」


歪な顔で彼女に近づいた。

考えていた文句も台詞も全部忘れて、わざとらしく面白そうな声をだして、――さん、と名前を呼んだ。
考える時間が欲しかった。唐突に行われることに、私は滅法弱い。「それと、あと、紫をちょうだい!」。彼女が手に持っている桃色を指さしながら言う。ひどく苦しい。彼女の反応も自分の行動も。無性に泣きたかった。口が言葉を発していたが、もう、自分が何を言っているのかも分からなかった。


こんなことが昔もあった。その時も後悔した。それで何度も涙を流した。
雰囲気に流される、意志薄弱な私が悪い。ワタヌキはそう言う意味で、言葉を使ったのだ。


あまり考えすぎない方が良いよ、と、気の毒そうに言った。

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10月16日 五分の一世紀の孤独

帰宅。

鞄を開けると、覚えのある匂いがした。体操着か、それとも菓子か。否、違う。彼女からもらった桃色から、それはしていた。
人工的な香り。人為的な香り。どこか懐かしい気がする、彼女の匂いだと思った。
私は一瞬充たされた気持ちになり、静かにそれを吸い込む。

彼女はそれを渡す、誰かのためにつけたのだろう。誰かのために。何かに気を遣う彼女など、彼女らしくない、と、違和感を覚えて私は笑う。彼女に頼んだ後輩を想像する。

その時何故か唐突に、私は彼女にもらった時のことを思い出していた。綺麗に纏めた荷物を背負っていて、彼女は一人で立っていて、脆い桃色一つだけ、晒して手に持っていた。(もしかしたら)

(あの時彼女は、私に渡そうとしていたんじゃないのか)

一つだけ持った桃色を。私に。


そして私は、この覚えのある香りを、どこで知ったのか思い出してしまった。半年前の水色だ。赤と同じじゃない。洗剤なんかじゃない。彼女は、あの時と同じように、今と同じように、香水をふったのだ。誰かのために。誰かの、ために。


彼女はどんな気持ちでいたのだろう。ひとりでそうする彼女を想像したら、茫漠とした虚構が触ってきて、私はまた、泣きたくなってしまった。如何ともし難い感情が押し寄せて来て、胸がいっぱいになった。隔てる物がなくなり、さらけ出して、触れられない、触れてはいけない、細かい彼女の機微の霧を、半身に浴びてしまった。それは肌につくと、形を無くして消えた。

彼女の回りに、ぽっかりと開いた空洞が見えた。それは私の中にあるものと同じだった。ブラックホールのように全てを吸い込み、誰も近づかせない。その空洞は、生きる人間全てが持つ、どうしようもない孤独だった。


(それでも、彼女も私も、人間は、孤独でないと言い張る。機微に以外に、触れるものはないというのに。それすら、真の形などないというのに。その全てを、誰かの手のひらが包んでいると、盲信しているのだ。)


空洞の存在に気付いた私は同時に、人と人とは、決して分かり合うことはないという事実も、認めなければならなかった。
微かな感情を感じることさえ、虚無しか残さないというのに、ましてや繋がることなど、できるはずもない。

しめった桃色を顔に近づける。香りはもう、消えていた。

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10月16日 ラスト・ダンス

私にぴったりとくっいていたそれは、今度は私をしっかりと抱きしめていた。その温度を全身に感じながら、初めて私は、自分からその手に触れた。生冷たい感触がした。

それの正体を、私は静かに悟った。形がなくて、それでも確かに触れてくるそれは、どうしようもない、寂しさだった。

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