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それでも君を*****。

(愛か恋かも分からないけれど)

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7月6日

いつものようにだいすき、と言ったんです
彼女はいつものようにありがとう、と言ったんです

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嘘吐きと偽善者の逃避行⑦

少女は垂直に跳ぶと、ジャングルジムに飛び付いた。不思議なことに、ジャングルジムは逆さになって空にくっついていた。

ジャングルジムだけではない。
滑り台もブランコも、皆逆さになっている。
少女は気が付けばジャングルジムにきちんと座っていたから、正しく地面に立っているのは私だけになっていた。世界が全てひっくり返っているのだ。

「みかなちゃん。君のことと、君が彼女と呼んでいる、あの子のことについて教えてよ」

少女は、滑り台に飛び移りながら楽しそうに尋ねた。

「みかなちゃん。この二週間、君はあの子と何をしていたの?」
「野宿」

私は投げやりに答えた。

「彼女は私のクラスメートだよ。あまり話したことはなかった。変な人。面白い人。おかしくなった頭を治すために、修道院の鐘ががんがん鳴る四時間目にどろんと消えてしまった。十日後また現れて、私を連れ去った」
「なんのために?」
「分からない」

少女は思案するように頭を捻ると、何処からともなく紙パックのオレンジジュースを取り出してきて、私に放った。「飲んで」「ありがとう」


「あの子はとても良い子だよ。真っ直ぐで、初志貫徹する。人の気持ちが分かる」
「そう。良い人だよね」
「みかなちゃん。君はあの子のこと、好きだった?」
「好きだよ」



少女は私の言葉を聞きにっこり笑うと、滑り台から飛び降り、私の前に立った。
そして私の首に抱きつき、首筋に手を沿わせた。

「君じゃ夢の続きになれないんだ」


いつも夢に出てくる、抱きついて泣いていた誰かはこの少女なのだと、その時気が付いた。

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7月6日

後ろから抱きついたのです
いつものようにだいすき、と言ったんです
彼女はいつものようにありがとう、と言いました
優しく
体育の後で、喉が渇いたのでジュースを買いに行くところでした
だから彼女から離れました
オレンジジュースを買いました
彼女に少し分けてあげようと、揚々と階段を昇っていたのです
揚々と、していたのです

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嘘吐きと偽善者の逃避行⑧

「ねえみかなちゃん。私は君が大好きだよ」
「ありがとう」

「君は君で、誰でもないんだよ」
「そうだね」
「君は、彼女じゃないんだ」
「そうだね」
「私は、あの子じゃないんだ」
「そうだね」

少女は泣いていた。


「ねえ、あの子は、君と何処に逃げたかったんだろうねえ」


私は薄れていく意識の中で、逆さまの遊具が地面に叩きつけられる音を聞いた。
首筋からは、血が滴り落ちていた。
 

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7月6日

教室の席に彼女はいませんでした
私の席のそばで、心臓と星と話していました
私は席に着きました
そして聞いてしまったんです
彼女が笑いながら 笑いながら 話しているのを
殺されそうだ、と話しているのを


いつものようにだいすき、と言ったんです
彼女はいつものようにありがとう、と言ったんです
優しく
五分も前の話ではないんです 一瞬だったんです
ほんとうに、一瞬だったんです


自分が悪いと分かっています 分かっています
二面性に触れてしまったんです いつも、私が知らない振りをしていたそれに
ありがとう、と言ったその口で私を罵るのを

悪いのは私なので 何も言えないのです
何も言えないのです
何も言えないのです

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嘘吐きと偽善者の逃避行⑨

少女の口から流れた血が、私の首を伝って滴る。

「みかなちゃん」

彼女が少女の背後から顔を出した。
彼女の手には水色の紐が握られていて、それは少女の首にかかっている。

少女は虚ろな目で私を見て、彼女を見た。
遊具は、気が付けば元通りになっていた。

「名前を教えてよ」

私が聞くと、少女は自嘲するように言った。

「私は「私」だよ」




どこからか、修道院のお昼の鐘が、がんがんと聞こえてくる。

「みかなちゃん、帰りましょう」
「どこに?」
「私たちの学校に」

目の前には学校の正門があった。
扉を開ける直前、彼女は私に聞いた。
「私の名前を覚えていますか?」
どうしてか思い出せなくて、「なんだったっけ?」と振り返る。
そこには何処からか飛んできた枯れ葉が落ちているだけだった。


中途半端な時間で、私は事務の前の名簿の、自分の名前の欄に時刻を記入した。
私を連れ去る人間は、もういなかった。


教室は、私が着席することにより完璧に埋まった。
「だいじょうぶ?」
隣の席の級友が、心配そうに声をかけた。
「大丈夫だよ。ちょっとお腹が痛かっただけ」
「そうじゃなくて、」
その傷、と首を指した。
「噛みつかれたの?」

あ、と思い級友の顔を見る。少女の顔にそっくりだった。

「ねえ、みかなちゃん。私と一緒に逃げようよ。四時間目の真ん中の、修道院の鐘ががんがん鳴り始める、お昼時に」

私は少女の顔をした級友の差し出した手をしっかり握り返した。


土手を二人で駆けていった。風が青葉を薙いでいる。
少女が私に尋ねる。
「ねえみかなちゃん。君は、私が君を殺すと思っているの?」
「まさか」
「私は君を殺すよ。君の首に噛みついて、動脈を噛みきってあげる」
「まさか。そんなこと、できないでしょ」

少女はくすくす笑う。私も、笑う。

「私は君をいつか殺すよ。水色の組み紐で首を絞めて。墓標に薄い桃色の紙の花を供えてあげる」

私の言葉を聞いて、少女は今度は声をあげて笑いだした。私も、大きな声を出して笑った。

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無題

私が悪いのです

ですから、私は何も言いません
貴女に全てを話すように迫ることも 私の全てを話すことも
もう、何もしません


羞恥と恥辱にまみれたこの手で、どうして貴女を触れましょう

どうか、白いままでいてください 純粋なままでいてください
たとえそれが偽りの白さだとしても
貴女だけはそれを信じて真っ直ぐに突き進んでください
その先に何があろうとも、自分の信じたことを疑わないでください


万が一にでも貴女が助けを求めるなら、誰より早く駆けつけます
貴女の前に跪き、全てを知っても知らない振りをします

貴女を思ってのことではありません。
貴女を盲信することが、かつての自分が存在したことの証明になるという、醜いエゴイズムです

その証明は、私のしたことを忘れさせないでくれましょう
それは惨めさを忘れさせずに、私を贖罪に駆り立てるでしょう
永遠に



ですから仮令貴女が私を憎もうと蔑もうと嘲笑おうと罵ろうと、私は、
それでも君を愛している。と嘯くのです。
(それは愛とも恋とも言えないでしょうけれど)

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嘘吐きと偽善者の逃避行⑩ 了

どこまでも私たちは逃避行を続ける。
少女の気がすむまで、どこまでも逃げ続ける。夢の続きになれない私は、いつまでも少女の傍にいるだろう。

少女の一番綺麗な記憶である私は、決して少女を突き放しはしない。それが少女にとって一番残酷なことだと知りながら、それでも好意を振りかざして、何もみせずに全てを受け入れた振りをするのだ。

夢の中で少女が抱きついていた誰かは、段々と私に似てきていた。


「みかなちゃん、だいすき!」
「ありがとう」


少女は、私を信じている。心のそこでは私の存在すら疑い続けているくせに、それを決して口に出さない。
おそらくわかっているのだ。それを口に出すときが逃避行の終わりなのだと。


嘘吐きと偽善者は、どこまでもどこまでも逃げ続ける。
最初に私を連れ去った彼女や、少女が夢の中で抱きついていた誰かの影から逃げ、またそれを求めるように。

最初の逃避行に、私たちは新宿の喫茶店で煙まみれになる。






夢を見た。
少女が誰かの足元に跪いている。
首には真綿をこよった紐が巻きついてる。
少女は動かない。
見かねた私は少女の手を取り引き上げようとした。
それでも少女は動かなかった。

少女は笑っている。
誰かを見ながら笑っている。

私は誰かを見て、そして悟った。
少女が何故笑っているのか理解した。

「誰か」だと思っていたそれは顔の無い蝋人形で、勿論、私も彼女も、そうであったのだ。

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7月8日クレーターを練り消しで塞ぐ

心臓は何時ものように意味ありげな笑顔で(それは彼女の人間に対する接し方で、実際は何も無いのだけれど)、言った。

なんということだろう。


「そんなに悪かったの」
「むかし手術をしたところでね、」
「そんな、ほんとうに、」

会話をする余地も無いほどに、つまり四点以内の気合いで臨もうと思っていたが、そういうわけにもいかなさそうだ、などとぼんやり思っていた。

「泣かないで」
眉を下げて動揺した私を世紀が笑って慰めた。
優しい世紀は機微に気付いてばかりで、うっかり昔を思い出しそうになる。
「がんばろう」
「うん」
「ゾーンを、ちゃんとやろう」
「うん」

心臓は私に手を振った。



「エースが試合に出られないなんて、一体どうすればいいの」


土曜日に言ったじゃないか、大丈夫だ、って、言ったじゃないか、エース。私たちのエース。嘘を吐いた、私たちのエース。

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7月9日 ファンファーレを鳴らす皮肉なホイ ッスル

「焼いているの?」
「そう」
スルメ焼きみたいだ、と言うと永遠は笑った。
「暑くないの?」
「きもちいいよ!」

空は先ほどのぐずついた様子とはうって変わって、からりと晴れていた。
永遠はコートの真ん中でうつ伏せになっている。世紀と船頭はフリースローを打っている。先に五本入れたほうが、アイスクリームを奢って貰えるらしい。

「太陽が、大好きなんだ!」

永遠が無邪気に言った。

無邪気さは時に残酷だ。白いゆえに人を戸惑わせ、時に人を傷付ける。しかしそれでも、

「素敵だと思う!」

私は心から言った。願わくば永遠の無邪気さが、永遠に失われないようにと、この空に祈った。


太陽の光が降り注いでいた。もうすぐ始まる、終わりの始まりを祝福するかのように。

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