私は彼女に何も与えなかった。彼女も私になにも与えなかった。彼女は私が望んむものを全部くれた。
青、チョコレート、返事、メール……全部私が望んだことで、あるいはそれらが与えられるのは必然だったんだ。ただ彼女は、それ以上のは何も、びた一文だってくれなかった。そう、ずっとそう思っていたんだ。
でもあったんだ、一つだけ。あの日、全てが始まってからたった一つ、彼女が、彼女の意思で、私に与えたものが。
本当はね、それを、全てを知っている大人が、何も知らない子供に嘘を吐くような(それでいてそれが優しさだと信じているような)残酷な好意だってまとめようと思っていたんだよ。(若干の例えを交えてね)でもねえ、やっぱり無理だった。それは悪意ではないんだから。悲しすぎるほど優しい他人行儀。それを否定するのはあまりに苦しい。その時その瞬間の私は、間違いなくそれで救われていたんだ。無様な姿を晒したことも忘れられるくらいにね。
彼女には沢山のものを貰ったよ。心からそう思う。私は何もあげなかったっていうのに。分かっていて独善的な愛を注いだ。分かっていて逸れた道を貫こうとした。分かっていた。本当は、私は彼女のことが好きなんじゃないって。いつまでもうやむやにだらだらと続けてきたのは、きっと怖かったからなんだ。この気持ちが無くなったとき、私が今までやってきたことが白紙に還るのが――怖かったんだ。
異常なまでの執着は、ただ臆病な自尊心と、空っぽの中身を隠すためだけのもので、それ以外の理由なんてありはしなかったんだよ。空っぽの私は、自信を持って言えることが一つしかなかった――『私は彼女が好きです』。
ああ、休み明けに彼女の顔を見て、何も思わなかったときの焦燥感は、きっとこれだったんだ。
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