「ああ、そうだ」
私は人差し指で首をなぞった。
「これ、一昨日もらったんだ。狐と幸せに」
親指で鎖を襟の下から引っ張り出すと、鳥籠をあしらったチャームを晒す。銀色で小ぶりのそれは、華奢で今にも壊れそうだ。
「プレゼントはね、きらきらしたのに、したんだよ!」と楽しそうに笑った狐は、どうやら方向性を違わなかったらしい。ピンク色の紙袋、極彩色のリボン。目に刺さる色。「ありがとう!」「幸せとね、凄く悩んだんだ!」私は貰ったその場で首に巻いた。家に帰っても巻いていた。学校が始まっても巻いていた。
華奢で小さな今どきのそれは、余所行きのジュエリーボックスにでも入れておくべきなのだ。壊れてしまうし、学生的ではない。常につけているものでもない。分かっている。そしてなにより、浮いているのだ。
首を見て目を丸くする太陽に
「私らしくないよね」
と言うと胸にぽっかり穴が開いて、何とも言えない重苦しい気持ちになっていた。「そうだよね、あんまりつけないよねえ」
だとしたら何故私はいつまでもこうしているのだろう。
思いやりだな、と言った幸せに、私が気に入っただけだよ、と応えた。それは本当だったが、だからといって真理ではない気がした。
銀色をぶら下げた自分を想像したら、上流階級のパーティーに紛れ込み――必死で溶け込もうとしている――一般市民を見てしまったような憐憫の情が溢れてきて、惨めったらしくなった私は、結局風呂以外ずっとつけていたそれを、首から外してしまった。
外的な私と内的な私にずれが生じること以外にも、私自身に性別の概念が加わることが、堪らなく気持ちが悪かった。
いつまでも膝上のスカートを履いている理由を、私はうっかり失念していた。
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