窓の前の棚に座り、彼女は弁当を食べていた。
「――ン、――サン、練習があるってさ」
「体操着持ってないんだー」
私は軽く会釈をするとそのまま背を向け、名前と連れ立って教室を出ようとした――が、困惑したような気配を感じてしまい、立ち止まる。酷く無愛想だったのだ、と自分の行動を省み、慌てて身体を半分捻ってそう、と頷いた。たった今ぞんざいに扱ってしまったのは、そういえば彼女なのだ、と妙に冷静に分析するが、だからといって会話を続ける言葉など、他人に対するように見つからなかった。
「制服ならで良いならいけるよ」
慌てて言ったような彼女の台詞。それを許可する権利するなど一生徒の私にはないのだ、と穿った感想を抱き、気がつけば
「……私に言われても困る」
などど、苦笑しながら予想以上にきつい言葉を発していた。
なんとなく、いや、確実に、人と話すことが難しくなっていた。そしてその原因に彼女の存在は見あたらなかった。他人に対して不感症になっていて、自分は酷く内向的になったのだと、恐ろしく冷たい頭が計算を弾き出し、だからと言ってそれは悲観すべきことではない、と誰かの声が響く。
教室の扉を開け、名前と二人で廊下に出ようとした。
その直前、肩越しにと窓を見ると、ぼんやりとした視線が、私の視界に溶けた。
それが彼女のものだと認識できたのは、私が隣の教室に入り、政治の顔を見たときだった。