忍者ブログ

それでも君を*****。

(愛か恋かも分からないけれど)

2024.11│123456789101112131415161718192021222324252627282930

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

10月5日 猶予

もしかしたら、何も分かっていなかったのかもしれなかった。

気持ちは一過性のもので、いずれなくなると暗に示したのかもしれないし、卑屈な謙遜をしたのかもしれない。今更分からないし分かる必要もないことだが、なんとなく、前者ではないか、と思った。太陽は言った。「彼女はきっと、ここまでだとは思っていないと思う」。そしてそれは本当だったのだ。

本当に私なんかでいいの、一年後に後悔するかもよ。そう言われて私は答えた。あなたでなくては駄目だし、尊敬しているのは、今のところあなただけだ、と。

彼女は彼女らしくないことを言った。今思えば、前日からそうだった。可か不可か以外について言及するのは彼女にしてはおかしなことだったし、私に必要以上に干渉するのも、彼女の性格を考えればおかしなことだった。しかしその違和感に気付いたのは、それから随分と経ってからだった。

私が言ったことは、確かに本当のことだったし、今も嘘ではない。しかし、と私は思う。

(彼女があんなことを言わなければ。私があんなことを言わなければ。今ごろ私は彼女に頂戴、と言って、彼女も私にいいよ、と笑顔で言って、それで私は桃色を手に持って、きっと笑顔で彼女に手をふれていたのに)


彼女は私に364日の猶予を与えた。その意図は、忘却防止の意味しか含まなかったに違いない。そしてその時は、お互いにそう思っていたはずなのだ。

拍手

PR

10月15日 ミイラの壺

人の目を見れないから、恐らく私は顔の表情に重きを置いていない。勿論視線に意味はない。判断は言葉と声と状況に起因していて、それで恐らく間違えて来なかった。だから同時に人の目を見れないわけで、要は人の機微に触れすぎるのに耐えられないということなのだろう。

(声音で――)
私は顔を伏せた。
(声音で分かってしまうんだ)

それが勘違いである可能性だってある。それが被害妄想の可能性だってある。だから、心臓は悪くない。心臓はただ噂話をしているだけで、なんの悪意も無いんだから。

それが事実なら当然の報いだが、虚実なら耐えられまい、と思った。それの特性上、尾鰭がつくのは確実であるのだけれど。知らない振りをすればいいだけだ、とポジティヴに私は思う。そしてようやく過去を濯げるのかと、曲がった安心をする。今を肯定する。

拍手

10月14日 飴と無知

(めがいたい)

目薬を取りに戻った。当然だが私の席には彼女がいた。

床に膝をつく。鞄の中の紙袋を開ける。ピンク色の小さなボトルを取り出す。もう一つの鞄から小包を取り出す。ぐるりと辺りを見回す。教師の不在を確認する。袋を乱暴に剥く。飴玉を口に放り込む、と、ようやく一息つけたような気がして、私は小さく息を吐いた。口の中にじっとりと葡萄がの味が広がる。そして何の気なしに、私は私の席に座っている人間に意識を向けたのだ。それは紙が捲れる位のほんの一瞬で、何の含意もなかった。が、彼女はそれに呼応してしまった。

「ねえ、だいじょうぶ?朝はどうしたの?」

後頭部に言葉が振り掛けられ顔を上げると、真っ直ぐな彼女の目とかちあった。真っ直ぐ。二秒ほど視線に意味を持たせることに成功したが、他の人間と同じように、それを維持することは出来なかった。私は視線を下げ、事実を並べながら鞄のファスナーを開ける。「めが、はれた」

そう、それはたいへんだあ、かわいそうに、と台本を読むように彼女は言った。少なくとも私に向けられた言葉ではないと分かったが、そばにいた誰かに向けたわけでもなかった。ただ漠然と、事情を知る全ての人間に宣言したのだと思った。

そしてその時ふと私は、黄色が言ったことを理解してしまった。『自分に向けられるものには敏感だが、他人のそれは分からないんだ』。それを今彼女は体現し、私はそれに気づいてしまったのだ。恐らく彼女は、私が忙しなく動いている時にさえ「意識を向けらていると思って」意識を向けていたのだろう。私は曖昧に頷いた。

単に飴に関して自己中心的だった自分を恥じ、要るか、と差し出すと、いる、と礼を述べてそれを受け取った。妙に嬉しそうに受け取った。側にいた二人の分も置くと、「ねえ、賽子、ほらあ、――がくれたよお」


キャップに被せたビニルをはぎ取り、洗面台で目薬を注した。溢れた薬が頬を伝い、涙のように見える。きっと嬉し涙だ。気が付けば左目の痛みが、また主張を始めていた。


(ああ、めがいたい)

拍手

10月15日 向上心

うう、と荒く息を吐く私に、彼女は大丈夫、と心配そうに声をかけた。(嗚呼、なんで出来ないんだ。なんで。なんで。)経験は間違えなく彼女以上にあるが、そのどれもあまりよいものではないのだ。自分でもそれには気付いていた。だが、それを補うのは鍛練しかないということも、痛いほど承知していた。(はじめてまとも以上の人とやっている――もう少し早くからあたっていれば)

五メートル先の彼女を見、右足首を二度回す。左足に体重をかける。息を静かに吐く。じり、と右足に力を入れる。神経を集中させる。そこでふと、目の前を横切るエースに、思い立って声を掛けた。
「エース――ちょっと見て貰えませんか――」


二三の言葉を貰い、チャイムと同時にどうにか形になった。


荒く息を吐いて蹲った私に彼女は近づいた。だいじょうぶ。背中にべたりと触れる。それはとても長い時間に感じられた。実際それは長かった。違和感を感じるほどに。何かを考えるべき事実のはずだが、しかし残念なことにそれは余りにも些細な問題で、私の頭を占めているのは全く別のことだったのだ。
「……つづかない」
「それは何度も走ったからだよ」
明るく慰める彼女の顔を見ずに、私はやはり全く別のことを考えていた。「走りきれるかな」
だいじょうぶだよ、と相変わらずからりと言う。私は私の頭と会話をしていて、彼女の言葉に機械的に返事をしていた。昔のように。ワタヌキのように。

拍手

10月16日 ラスト・ダンス/戦友

「また会おう」

一通りの話をしてから、彼女は言った。私は黙って頷いた。次に会う時はトラックの、赤いコーンとコーンの間だ。何の会話も無しに別れる。そして別れると同時に繋がる。

一度無造作に背中をむけかけて、私は四ヶ月ぶりに彼女に向かって右手を伸ばした。彼女は全てを了解したかのように笑って、しっかりと私の手を握った。言葉はなかったが、恐らく考えていることは同じだった。
彼女の手は大きくて、何でも掴めてしまいそうだった。

走ろう。疾風のように。かつて彼女が指摘したようにできるかは分からないけれど。今は、私の全てを懸けて走れるような気がした。

拍手

10月16日 ラスト・ダンス/自負

恐ろしくスムーズに体がついてきていた。スピードが足に乗る。床を、蹴る。蹴る。走る。走る。走る。身体がしなる。加速。加速。嗚呼、楽しい!練習の賜物だ。これだから陸上競技は止められない。もっと、速く。速く!
(ひとり め !)
コーナーの前に躍り出る。(つぎ!)
ぐるりと曲がる。曲がる。前方に二人。そしてその先には――
私はくしゃりと頭を振る。そして皮肉にも、こびりついた十八年と安堵が、私の足を緩慢にした。

ず、と手を滑る紫色。時が止まる。
(ああ、しまった)
が、最悪のヴィジョンは現実にならず、彼女の指が、つかむ。掴む。掴んだ。

(走れ!)

ふらりと減速しながら、私は思う。走れ。走れ。誰よりも速く。抜かしてしまえ、みんなみんな――!


「――サン!」
願うように叫んだ。

拍手

10月16日 ラスト・ダンス/追跡

今日もそれは私についてきていた。

いつも、ふとした瞬間に存在を感じるのだ。誰もいない水場、人の集まった体育館、放課後の校庭。会話の切れ間。それはどこにでも現れた。
それは輪郭がぼんやりとしているが、確かにそこにいて、私をじっと見ていた。意識を向けようとしても、上手く出来ない。私はそれを認識するのを、無意識に避けていた。

そして今日もそれはいた。それもいつもよりずっと近くに。私の背中にぴったりとはりついて、身動ぎせず佇んでいた。

私はそれから意識を逸らすために、大声を張り上げる。がんばれ。がんばれ。

拍手

10月16日 ラスト・ダンス/懐疑

どうにも、君に頼んだのが悪かったらしい、と呟くと、もしかして私のせい、とオアシスが驚く。まさか、と大袈裟に否定して、肩を竦めた。「『友達』なら、誰に貰ったっていいんじゃないの」

例えば私が元いた運動部で、雪国先輩と朱鷺先輩に頼んだとしたら、それは非難されて然るべきだ。しかし、今の部活なら話は別だろう。(部活の温度差、というやつか――貰う、という意味合いは全く違うから)
ましてや、クラスメイトなら、どうだろうか。いや、それは非常に例外的な話で、そもそも答えなどないのだけれど。

「そうでなくたって、君と彼女じゃあ、意味合いが違うことくらいすぐに分かりそうなものだけど、」


『自分に向けられる気持ちには敏感だが、他人の気持ちはわからないんだ』――また、その言葉がちらついて、それを振り払おうと躍起になる。珍しく与えられた言葉だが、まだ、そんなことは無いと信じていたかった。


「よくわからないね」
「よくわからないな」
情報に確信が無い以上、それ以上は言及出来なかった。ただやはり、後ろ指を指されることなど、したくはない、と思った。

拍手

10月16日 ラスト・ダンス/欠如

頑張ってね、と彼女が声を発した。わたしにいっているの、――さん。――ちゃん、次でしょ、競技。チョコレートが喉に貼りつく。べたり。彼女が笑う。にこり。何かを言いたくて顔を向けると、彼女の横顔とかち合った。目を細めて口を開く私はひどく焦っている。くらりと目の前が歪む。

「――さんも――」

(「がんばってください」)

くらり。
被せて梨の声がする。「アップ、しよう」「――ああ、しよう」。弾けるように立ち上がる。景色が時間を持ちはじめる。(行こう、狐。)優先したのは義務と自負と正義感で、視界の端に背中を見ていた。

からり。茶色の小箱が膝から落ち、それを拾わず私は去った。

拍手

10月16日 ラスト・ダンス/サイレンサー

観客席は閑散としていた。

遠慮がちで配慮のある私の後輩は、きっと今は来ない。そして人に厳しい彼女は、一列前で身辺整理をしている。
ペットボトルの蓋を捻りながら、私は漠然と狐と良心の話を反芻していた。能動的な二人に感謝をしながら。私の後輩に思いを馳せながら。



「――さん」

「――――なに?」

その声と間の開け方は、話しかけられることを予想していたニュアンスを含んでいた。
「後輩さんに頼まれましたか?」
「一つ――一個下に――ね」

斜め下を見ながら話す。最後に目を見る。身体を動かす。笑みを貼り付ける。意味と含みとシナリオのある会話をするとき、彼女は特にそうだった。用意していた言葉を間を見て打ち込むような。そして相手の言葉を待つ。

私は、そう、と会話にサイレンサーで終止符を打ちこむと、また例の話を反芻し始めた。が、あまり頭に入って来ず、気がつけばぼんやりと別の思考が侵食してきていた。

(なら、いいじゃないか。無理をしなくても。嫌いな人間に貰われなくたって。彼女を好きで、彼女が好きな人間がいて、頼まれているなら、それでいいじゃないか。)


――サン。と何かを言いたくて声を発したが、運悪く旧友の声と重なり、一歩退いた私はそのまま遠くへ去っていった。そして言いたかった言葉も、どこかへ去っていってしまった。
(恐らく私はもう、全力で走ることができないのだ。だから、嗚呼。私はただ、)

(私はただ、あなたのおぼしめすままに)

拍手

カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
カウンター
ブログ内検索
アクセス解析