[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
「努力は、素質に勝つよ!」
赤が叫んだ。
20-2。絶望的だ。
それでも這い上がって来る。勝ちに来ている。諦めていない。
私は見たかった。赤が勝つところを見たかった。赤がエースに復讐するところを見たかった。
『うちは、復讐したいんだ。エースも永遠も勿論努力をしている。努力をしているけれど、天性のものも絶対持っている。そういう人には負けたくない。四月からこつこつ練習してきたんだから。少し練習しただけで、才能で勝つような人に、負けたくない』
努力が才能に勝つところを見たくて見たくて見たくて仕方が無くて、私は敵である赤や浅が大好きだった。一生懸命な人は好きだ。大好きだ。周りが見えなくなるくらい入れ込む人が大好きだ。
「30点入れよう!」
しかし、エースのいるこのチームは万全だ。小手先の小細工など一網打尽にするこの勢い!
最早エースは楽しんでいる。負けるなどとは思っていない。
残り時間は三分を切った。
ならばせめて、私だけでも全力で当たろう。負けるかもしれないプレッシャーを感じながら、素質が努力を負かす瞬間を見ていよう。それが最後の、赤たちへの礼儀なのだ。
三ヶ月という時間はあまりにも短い。これがあと三ヶ月長くても、結果は同じだったのだろうか?
「お疲れ様。シュート入っていたね」
「しかし、一本しか入らなかったよ」
それを聞いた世紀が、「私なんて零本だよ!」と言う。「世紀は活躍したんだから良いじゃない! 私はシュートを入れなければただの役立たずだよ」
皮肉などではなかった。私に話しかけた彼女への返答で、彼女において使うとこの言葉の意味は変わる。
そして彼女にたいしても皮肉ではなかった。
彼女は軽く肩を叩いて労って、私はただ、それでも嬉しかったのだ。
「そっちって、自虐的になっているの?」
「いや、全然。あっさりだよ どうして?」
バレーも卓球も見ずに、体育館の入り口でぼんやりと決勝を見ていると、赤と浅と、それから例のチームが二人いた。私の試合が終わってからは、初めて話す二人だった。
「星と心臓がね、『こっちが負けていい気味って思ってるでしょ』だって」
「星が?」
「まだあのことを根に持っていると思ってるのかな」
「心臓は分からない」
「いつまでも根に持っているわけないよ。うちはね、人に嫌われることと誤解されることが嫌いなんだ。だから、そう思われるのは、」
赤は涙ぐんでいた。
四月から、ずっと練習してきた赤。制服で校庭を飛び回っていた時からいた。
でも強化チームに入れなくて、それでも這い上がろうとした赤。二回戦で味方とあたると分かって、必死で練習したチーム。最後まで諦めなかった。味方にはないものを持っていた、この学年全部から愛されたチーム。
色々なことを沢山話してきた。
「ねえ、赤。勝ちたかったのは、私だけだったのかな、頑張りたかったのは、私だけだったのかな、悔しいのは、私だけなのかな」
味方の前では泣かなかったけれど、そこでわんわん泣いた。