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それでも君を*****。

(愛か恋かも分からないけれど)

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9月11日 スカート

「ああ、そうだ」
私は人差し指で首をなぞった。
「これ、一昨日もらったんだ。狐と幸せに」
親指で鎖を襟の下から引っ張り出すと、鳥籠をあしらったチャームを晒す。銀色で小ぶりのそれは、華奢で今にも壊れそうだ。


「プレゼントはね、きらきらしたのに、したんだよ!」と楽しそうに笑った狐は、どうやら方向性を違わなかったらしい。ピンク色の紙袋、極彩色のリボン。目に刺さる色。「ありがとう!」「幸せとね、凄く悩んだんだ!」私は貰ったその場で首に巻いた。家に帰っても巻いていた。学校が始まっても巻いていた。


華奢で小さな今どきのそれは、余所行きのジュエリーボックスにでも入れておくべきなのだ。壊れてしまうし、学生的ではない。常につけているものでもない。分かっている。そしてなにより、浮いているのだ。


首を見て目を丸くする太陽に
「私らしくないよね」
と言うと胸にぽっかり穴が開いて、何とも言えない重苦しい気持ちになっていた。「そうだよね、あんまりつけないよねえ」
だとしたら何故私はいつまでもこうしているのだろう。

思いやりだな、と言った幸せに、私が気に入っただけだよ、と応えた。それは本当だったが、だからといって真理ではない気がした。


銀色をぶら下げた自分を想像したら、上流階級のパーティーに紛れ込み――必死で溶け込もうとしている――一般市民を見てしまったような憐憫の情が溢れてきて、惨めったらしくなった私は、結局風呂以外ずっとつけていたそれを、首から外してしまった。



外的な私と内的な私にずれが生じること以外にも、私自身に性別の概念が加わることが、堪らなく気持ちが悪かった。
いつまでも膝上のスカートを履いている理由を、私はうっかり失念していた。

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9月22日 赤旗を掲げる雪達磨

最初の祭が終わった。

「梨――ねえ梨。貴女は、  サンに青を頼んだ相手を知っている?」
梨の答えは至極単純で明快なものだった。「知らない」。

これから先の会話をどう続けたものか思案しながら、私は黙った。安心の次には疑惑が襲ってきて、果たして二つの道のどちらを進むべきか、問うてくる。こんなことなら席を立たなければよかった、と些か後悔をしたが、今更無意味なことだった。それ以上聞かない梨を左側に感じながら、私は投げやりに構えていた。

「ええと、部活は一つだけだったっけか?」
突然の梨の発言に、そしてその内容に、ぎくりとしてただがくがくと肯き、頭の中は様々なことが駆け巡る。しかしその深読みに反して梨はただ文化祭の話に繋げたいただけらしかった。「どうして」「いや、他に掛け持ちをしていたかなあ、と」私はそこで、用意していた台詞を言った。
「ねえ、梨。私は元運動部なんだ。運動部なんだよ…………!」

知ってるよ、と梨は笑い、私も少し笑った。

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9月16日 内向ベクトル

窓の前の棚に座り、彼女は弁当を食べていた。

「――ン、――サン、練習があるってさ」
「体操着持ってないんだー」
私は軽く会釈をするとそのまま背を向け、名前と連れ立って教室を出ようとした――が、困惑したような気配を感じてしまい、立ち止まる。酷く無愛想だったのだ、と自分の行動を省み、慌てて身体を半分捻ってそう、と頷いた。たった今ぞんざいに扱ってしまったのは、そういえば彼女なのだ、と妙に冷静に分析するが、だからといって会話を続ける言葉など、他人に対するように見つからなかった。
「制服ならで良いならいけるよ」
慌てて言ったような彼女の台詞。それを許可する権利するなど一生徒の私にはないのだ、と穿った感想を抱き、気がつけば
「……私に言われても困る」
などど、苦笑しながら予想以上にきつい言葉を発していた。
なんとなく、いや、確実に、人と話すことが難しくなっていた。そしてその原因に彼女の存在は見あたらなかった。他人に対して不感症になっていて、自分は酷く内向的になったのだと、恐ろしく冷たい頭が計算を弾き出し、だからと言ってそれは悲観すべきことではない、と誰かの声が響く。



教室の扉を開け、名前と二人で廊下に出ようとした。
その直前、肩越しにと窓を見ると、ぼんやりとした視線が、私の視界に溶けた。
それが彼女のものだと認識できたのは、私が隣の教室に入り、政治の顔を見たときだった。

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9月23日 コンプレックス・ジレンマ 1

私は明後日、神社に行く。



暑い。
二階の自室は太陽光をたっぷり吸った大気で満ちている。全身からじっとりと汗が滲み出、心なしか息をするのが億劫だった。
寝転んだシーツが、ひんやりとして気持ちが良い。
単語帳を片手で持ち、全身の力を抜いていると、いつのまにかうとうととしていた。


夢を見た。

彼女が私を見ている。広い教室の対角線上に、視線がはしっている。
彼女は笑う。貼り付けた笑みで笑う。私はそれに気づかないでいる。
彼女は手を振る。昔のように手を振る。私はやっと彼女に気付き、私に向かった視線を見る。
そして私は彼女を指差し言うのだ。




ぱ、と目が覚め私は、首筋に汗が溜まっていることに気付いた。
馬鹿馬鹿しい、と私は思う。私は意固地になっているだけなのだ。自分自身を救うために。
何の意味があるのだろう。思わせ振りは手口だと、彼女は何度も示してきたというのに。彼女は私ではないし、私は数学でない。そんなことは分かっている。それでは誰も救えないし掬われないことなど、分かっている。

枕の横に転がる携帯電話のランプは青く光っていて、私はのろのろとそれを掴む。知らない振りをしろというのだろうか、そんなことを言われてまでも。気付くなと、何もするなと、全てを知っていて知らない振りをしろと?
そんなこと私は出来ない、屈辱を与え続けるなど、日にちを跨いで待つことなど――そうだ、私は短期決戦型だ。

私は顔を枕に埋めた。自己中心的な自分が、たまらなく嫌だった。




『私はあなたとは違うんだ』
彼女はそれでも笑っている。
私はまた負けた気がして唇を噛む。



私は明後日、神社に行く。
彼女の影は、まだ私の傍をちらついている。

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9月23日 コンプレックス・ジレンマ 2

「今思ったんだけれど、神社で よければ好きな人おしえて よければ」
「いいですよ いればですけれど」
「それはいるととっても? 嫌なら言わなくてもいいんだよ?」
「考えておきます 好きの定義も嫌いの定義もわかりませんけど」
「定義なんてないと思うよ なんだろ その人といるのが 幸せな だけ おれはね」
「なるほど。個人的に 一緒にいなくても幸せなことはあると思いますが まああまり期待はしないで下さい」
「そういうのもあるのか おれは苦しいかな 一緒にいないと なんか苦しい 大丈夫だよ誰が好きでも たとえ直線のことが好きでも」
「違いますよ 可愛いというのは女子校のノリです  すてきですね 一度そういうふうに人を好きになってみたかった」
「期待してます」
「期待するべきではないです」
「いや まず好きな人がいたっていうことに驚き」
「好き……なのかよくわかりませんが」
「ということは 僕の知っている人?」
「ご想像にお任せします」
「追求してごめん」
「平気です きっとあたりませんから」
「あたらないの?」
「ええ高確率で」
「余計気になる! まさかタレントとかスポーツ系?」
「いいえ テレビ見ませんから」
「旧友?」
「何故?そんなことを言ったかしら ……それに好きとは少し違う イエスが好きなクリスチャンってとこです」
「尊敬みたいなかんじか」
「端的に言えば。私はその人がいなくちゃ駄目だったんです 過去形ですが」
「過去?現在のひとはいないの?」
「今もそれなりに尊敬してますが」
「僕の知ってる人?」
「分かりません」
「どういう、」
「存在は知っているんじゃないんですか、多分」
「まさか、前に話していた、」


「そう その人以外に強い感情を傾ける人は、今はいません」

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9月20日 逆転現象 1

教室のむこうに、彼女がいた。部活の友人たちと大きな群を作り、廊下を闊歩している。
視界の端にそれをとらえ、特になにを思うでもなく(あるいは、無意識に視界の端に弾いて)昼食をとるために良心と教室を出ようとした。扉から足を踏み出して、右に曲がって、階段を下りて外に出て、それで終いだった。はずなのに。
「おお」
彼女がこちらを見て表情を変えたのだ。それなりに親しい友人が、すれ違いざまに挨拶をするように。

私に向けたものか、良心に向けたものか、あるいは別の誰かに向けたものか、その時はまだ確定はしていなかったが、なんにしても私はそれを、自分に関係のないことだと認識し、まわりで繰り広げられる活動写真の一つだとして、教室を出ようとしたのだ。
おかしなことに私は、彼女には私が見えていないとでも思っているらしかった。何も思わなかったのだ。テレビの向こうのアナウンサーが、私に対して笑顔をむけているわけではないように、彼女も同じなのだと思った。

しかし、すれ違いざまに夕日がこちらに手を振り、それに応えるように振り返った時、視界に入った彼女の表情といったら!彼女は、あの時窓の側でしていたのと、同じ表情をしていたのだ。

私は何もしなかった。何もすることが出来なかった。それでも、辛うじて上げた口角は、状況の処理速度についてゆけず、酷くいびつに表情を作った。なにかを誤魔化すように会釈をして、それで階段を下りた。良心も私も、何も言わなかった。
私はそれが、良心に対するものだと思った。そして待ち合わせの場所に向かった。


これが彼女でなければ、彼女でさえなければ、私はもっとうまく笑えたのだろうか。彼女だったからいけなかったのか、それとも他の誰でも同じだったのか。私は考えた。しかし、やっぱり頭は冷静で、混乱もしていなければ取り乱してもいなかった。そしてふと、私は、何かに入れ込むことが出来なくなってしまったのではないかと、そう思った。そしてこうも思った。私は彼女とそんなに仲がよかったのだろうか、と。

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9月26日 論理破綻

微熱まで下がった。果たしてどうしたものか。
許された時間を二日も無駄に過ごしてしまったのだ――残された時間は少ない。

ぬるくなったシーツの、まだ冷たいところを脚で探しながら、私は天井の木目を目でなぞる。するとまた眠気が侵食してくる。『今週は色々あったからね。ゆっくりお休み。』と、熊。『ありがとう、もう眠ることにするよ……』。優しい熊。熊はいつだって一切の妥協と馴れ合いを許さない。


目を閉じて想像する。想像のつかない想像を創造する。それにはいつだって彼女の顔をした誰かがついてまわって、私に向かって微笑んでいる。


私のすることで誰かが幸せになるのなら、なんでもしたい、と思うのは間違っているのだろうか。
愛に生きたわけでもなければ、恋に盲目になったわけでもないが、私はそんなことを思う。たった一言を、私が言うだけで救われる人間がいるのだ。ビター・チョコレートの河で溺れている人間を、私は掬うことができるらしい。
しかし、その一方でこんな言葉を思い出す。
君は自分本位に生きるべきだ。君は自分の幸せを願うべきだ。そんな言葉を。


色々な人間が様々な言葉で私にそう言ってきた。肯定的な言葉面だが、常に否定的非難的ニュアンスを含んでいて、そのたびに私はこう答えた。そしてこれからも同じことを言うだろう。私はいつだって自分の好きなように生きていた。そんなふうには生きていない。と。


いつだって自分の好きなように生きてきて、それで誰かに死ぬほどの迷惑をかけてきた。だから、誰かの幸せのためになにかをしなければならないのだと、思っている。そしてそれこそが私の幸せだ。そう思うことすらエゴだと分かっている。けれど。そうして私は許されたいのだ。今まで私が迷惑をかけてきて、それ故私に敵意を向けた人たちに。
一度でも誰かに敵意を向けた人間は、一生その誰かを許すことはないのだ。過去を消すことなど、決してできはしないのだから。


私のすることで誰かが幸せになるのなら、なんでもしたい。そんなのはエゴだ。真の幸せではない。分かっている。でも、許して欲しい。本当は誰かじゃない。あなたに許して欲しい。でも私は、あなたに許される方法を知らないんです。だから、誰かを幸せにしようとするんです。それで、償おうとするんです。やっぱり、自分本位なだけなんです。

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9月19日 四月の魚 1

喉がからからに渇いていた。乱暴に踏んだウォータークーラーのペダルが派手な音を立てる。冷たい水が喉を静かに伝っていく。全身ががたがた震えていた。上半身が何かに圧迫されていた。ついた膝に触る床が冷たい。水道の縁にかけた手も熱を奪われていく。全身を腕で覆い、私は蹲っていた。
好意を確かめる行為。私は少し泣きそうになって頭をかかえていた。
「そうだ、前にもこんなことがあった」
床に膝をつける。
「そして断ち切るのを止めたんだ」
蛇口から溢れる水がステンレスを叩きつけている。
「でも直ぐに後悔した――それは一時的なもので、また疑いを持ち始めたんだ」


間も無く始まる体育祭の話になって、それからその流れで恒例のあの話になっていたのだ。
「私は貰い手がいないかもしれない」
梨と彼女が話していた。私は教科書を捲って、至近距離にいた。教室の喧騒に混じって、二人の声が耳を通り過ぎている。ふと、彼女のあの低い声で、私を凍りつかせる単語が聞こえてきて、私の聴覚は皮肉にも敏感になっていた。
「いることはいるんだけれど」
彼女が梨に言う。
「同じ部活の子じゃないんだけれど、元運動部の子で」
「約束したんだけれど」
「最近気まずいみたいで」
「なにもなくて」
「残念だけど」
「まあいっか」
「みたいな」
「その子だけなんだけどね、頼まれたのは」


私はたまらなくなって教室を飛び出した。


(知っていたんだろうに、私が傍にいるって)
喉を伝う水が熱を冷ましていく。ふと顔を上げると、東がこちらに歩いてくるのが見え、急いで水道を離れた。
(嗚呼、なんでまた、今更)
今朝のことが頭に過る。

(無意味に私の話をした。無意味に私の名前を読んだ。私のそばで)
(私にあいさつをした。私に手を振った)
(今までそんなことはしなかっただろうに!どういう風の吹き回しなんだろうか)

なにが苦しいのかは分からなかった。ただ、昔のように私はトイレに篭って頭を抱えていた。


(知っている。彼女は好意を繋ぎ止めたいだけなんだろう。無邪気さは時に、残酷だ。)

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8月3日 殼

もう少し自分本位に生きるべきだ、とその時狐は言った。それは勿論誉め言葉では無かった。「私はいつだって自分本位に生きているよ」。狐は言葉を使い損なった。その字面は本当に伝えたかったことを伝えられるものではなかったのだ。だから会話はそこで終わってしまった。
しかし言いたいことは伝わったし、表面の会話が有益な何かを生み出さなかったことも分かったので、私も特に言葉を続けることはしなかった。それで十分だった。


自分の好きなように生きるべきだ、と今度はワタヌキが言った。「私は好きなように生きているよ」
そうかな、と口ごもったワタヌキを見て、もしかしたら私は好きなように生きてこなかったのかも知れない、と思ったが、直ぐにそれは気のせいだと思った。そしてこう続けた。「仮にあなたの言う通りだとしても、私は絶対に好きなように生きることはしない」「どうして?」「私の唯一貫きたかったことは、全て否定されたから」ワタヌキはしばらく黙って考え込む仕草をしてから、彼女か、と小さく呟いた。「確かに、誰かに後ろ指さされてまでやりたいことなんて、沢山あっちゃいけないのかもしれないなあ」

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9月23日 コンプレックス・ジレンマ 3


「神社のこと」
「うん」
「言うよ」
「うん」
「…………   」
「………………うん」
「すきなのは」
「………うん」
「うん」
「知ってたよ」
「え」
「確信はなかったけれど」
「…………そっか」


上擦った声がスピーカーから漏れる。沈黙が漂う。沈黙が。私はふと、辛さと奈良を思い出し、口の端で笑った。今さらだったが、些か自嘲的に思い出す。皮肉にも私は奈良だった。

「……それだけ?」
「うん」
「いいの、あの」

言葉を濁すと、いいんだよ、と優しい声がした。「応援するから」。なんだか不思議な感じがして、私は目を閉じた。「応援されるのは困ります」「困るの?」「あなたは、会ったことがあるんです」「どこで……」
私は息を含ませ出来るだけ小さく言った。「文化祭」。

トール・ペイントのストローク、一本分くらいの時間が流れた。

「あの、すれちがった……男の人……?」
「    」
ストローク一本分の沈黙。
ストローク二本分の動揺の言葉を聞いてから、遮るように私は言った。
「だから尊敬してるんです。とても。」
今はそれで十分だった。



「安心しましたか?」
「……さあ、どうだろう」
曖昧な声を聞き、私は、彼女が私ならば、と無意味なことを考えていた。

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