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それでも君を*****。

(愛か恋かも分からないけれど)

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嘘吐きと偽善者の逃避行③

「いつか殺されてしまう」

後ろから誰かに抱きつかれていた。「殺さないよ」。面白がるように、或いは揶揄するように言葉が降りかかる。「殺せないよ」。
箱の中だった。机の上には教科書が散らばっている。



目をさますと私を連れ去った張本人が転た寝をしていた。暫くその寝顔を見ていると、人の気配を感じ取ったのか、静かに目を開け遠慮がちに欠伸をする。
「みかなちゃん、起きたんですか」
大きな口をあけ、無防備で全てをさらけ出しているくせに、どこか隙のない目をしていた。(そういえば彼女は、あの箱の中でも、いつもそうだった 気がする)

一日で隣の県まで来れた。
初めて来た公園の滑り台の下は、夜の闇もあいまって妙な安心感がある。

どこかで虫が鳴いている。
月の光と、薄暗い街頭が、ジャングルジムを照らしている。





「君は、私を殺すの?」

彼女は驚いて目を丸くして、それから不思議そうな顔をした。
「殺すわけないでしょう」


「殺されると思っているのは一人だけで、他の三人は、まさか、本気でそんなことは思ってないでしょうに」


他の三人とは誰をさしているのか、悲しそうな目をした彼女には聞くことはできなかった。
「命は一つしかないのです」
珍しく彼女は正論を言った。

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6月29日 溜息を溶かしたコーヒーと、知らない振り

敵は語気荒く私に接した。
怖いのだ、と彼女に言うと、「ああ、それはむかつくね」と機嫌好く笑った。とにかく、気持ちが悪いくらい機嫌が好かった。


船頭や星やエースも似たような目に合っているらしい。
エースは信念を持ってそれに立ち向かっているようで、私は純粋に感動した。(その中に明らかに東と思われる人間の話が出た。できれば彼女でなければ良いと願った)

『エースに教えてもらったと東が言うから、東に教えてと言った。でも教えてくれなかった!』
私の告げ口を聞いた彼女は、ひょうきんに東の元へ向かった。
おそらくそのときも、素振りを見せなかっただけで、エースは怒っていたのだ。そう、今日と同じように。


勝ちたいと強く願っている。しかしそれは敵の敗北を望むこととは全く違う。

 

 

シロツメクサの時から、恐らく予想通り知っていた。
星。彼女は対応に困っているし、心臓の考えることは今は分からない。

私は、運悪く、あるいは運良く、聞いてしまったのだ。

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6月30日 見ない不利

  、大好き、と言うと、ありがとう、なんて機嫌良く言うものだから、彼女がどんな人間だったのか忘れてしまっていた。
 

ふと三年前のことを思い出した。

そのころ凝り固まった正義感の塊だった私は、クラスメートを「わらう」(それも不当で理屈の通らない理由で!)人間に対して不愉快な気持ちになるような人間で、彼女はそんな私の隣の席に座っていた。
長く傍にいれば話そうが話すまいが、性格はなんとなく分かるわけで、物事に対して否定的にあたる彼女に対し、私は私の信念に反する者、という意味においてのある種の恐怖感と嫌悪感を抱いていた。
ただ、彼女が否定的にあたるのは、授業だとか教師だとか、部活の後輩だとか、遠くにあるものだったし、仲の良くない私に対してとても親切だった(今の私はそれを他人行儀な優しさ、と定義している)ので、私は彼女に多少の好意を持っていた。そのとき、それを自覚していたわけではなかったけれど。

そして黒板に数字の並んだある日のある時間、彼女は二号を「わらった」。

ただ漠然と彼女は他人を「わらったり」「おもしろがったり」しないと思っていた私は、少なからずショックを受けた。それは逆説的に盲目な信頼を表していた、と今になって気づくのだけれど。





そのことに目を瞑って(もしくは妥協して)、それでも「仲の良くない私に接する彼女」を慕っていた一年前、私も彼女も、その対応を大きく変えることが無かったのだが、それももう仕舞かもしれない、とぼんやり思った。
じわじわと蝕まれて行った繫がりが、もう取り返しのつかないところまで来ているようで、私は校庭の真ん中で、よれたセーターを頭からかぶった。
味方がコートに走っていく。
私は星を見送った。

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7月3日 一点五合目の馴れ合い

不機嫌そうな顔で彼女は教室に入ってきた。すぐに眠いのだと分かった。


「ねてる」
「ね」
鐘が休み時間の終わりを告げても、彼女は微動だにしなかった。
「おきて」
「鳴ったよ」

頭をつつくと、びくりと身体を震わせた。思いの外彼女は眠たいのだ。そして疲れている。
七月。八月の一月前。初夏。梅雨。そして終わりに近づく最後の山。

山の向こうには綺麗な景色があるという。彼女はそれを見るために山を必死で登っているのだ。


山の向こうに行ってしまえば、こちらには戻って来れまい。
私はそれに気づきたくなくて、未だに登山を躊躇している。安穏とした幸せな場所を、間も無く去らなければならないことから目を背けている。
こちら側は気づけば、ずいぶんと人が少なくなった。


べちゃりと机に伏せている彼女は、猫のようだ。
「かわいい」
そうだ、飴をあげよう。眠気覚ましに、立方体が二つくっついた小さな飴を。
そして私は自分の席に座る。

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7月4日① 刃物に素手で立ち向かう

(私は間違っていなかったのだ!)



試合が始まった。私は窓の外から、世紀と星と梨と、それから心臓がコートに入っていくのを見た。
「始まった」
行きなよ、と彼女が言う。私は、黙っている。時計は、18分を指している。彼女は、まだ教室にいる。


(嘘吐き)


教室はがらんとしていた。
いつもわあわあと戯れている人間たちも、流石に今日は帰宅したようで、珍しく静寂が漂っている。しかし全く寂しく感じないのはおそらく気持ちの問題なのだろう。

「……行かない」
「……行こうよ」
「行かない」

押し問答を数回繰り返して、お互い黙った。
もう、聞くことなど何もあるまい。此処にいる意味などあるまい。無意味なことなどしたくないのだ、と半ば強がりのように思った。
言いようのない不快感に襲われた。(それはきっと、不完全燃焼というやつだろう)

「行かなきゃ」

私は教室を飛び出した。






試合が終わると、丸くなってなんとなく反省会をした。
「大丈夫?」
「どうしたの?」
顔に出ていたわけでもあるまいに(否、おそらくきっと出ていたのだろうが)、世紀や星たちが心配をした。
(此れが他人行儀な優しさだというのだろうか、だとしたら此れに少し喜んでいる私は最低だ。他人の優しさにつけ込んでいる)
私はそこで、教室の窓から覗く人影を見た。直ぐに、彼女だ、と思った。

「私は」
「『私は』?」
「『私は』『貝になりたい』!」
「……わけではない」

会話は殆ど耳に入っていなかった。ただ、窓を見ていた。
そこで初めて頭を下げた。
伝わったかは分からない。私の視力は著しく落ちてしまって、彼女が何処を向いているかも分からないのだ。

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7月4日② 猫が飼いたい、と私は嘯く

疚しい事があるから動揺するのだ、と言うと、心臓はいつもの笑顔で笑った。


「東は真っ白だね。彼女はわりと……」
「そう、アライグマのように黒い。怖い。怖いよ」

そういえば、最初にアライグマなどという表現を使ったのは誰だったろう、と、見当違いな感想を抱いた。

「涙目になっているよ」
「え」

比喩ではなく本当にそうであったようで、私は自分に驚いた。
ただ、あの時のように泣くほどのことではなく、わあわあ泣き叫びはしなかったので、安心した。
心臓は謝って、私は有難う、と感謝した。




(彼女は初めから、私と向き合う気など無かったのだ)




意見を聞きはしないのだろう。 (否、聞く。聞いたとて理解する気などない、ということだ)
それが酷い、ということではなく、共通認識が出来上がってしまうということで、共通認識があるから、簡単に何かに迎合することはできない。初めから結果はでているのだ。そう、円卓のときのように。
そんなものだ。
仕方が無い、と問題を投げるといつも思い浮かぶのは黄色の話で、私はそれを黒ととるか白ととるか、いつも迷っている。



(あの時もあの時もあの時も、笑顔で接したその後ろで)

 

「猫だとしたら、ずいぶんと生意気な猫だね」
「ああ、だからこそ猫なんじゃないのかな」

 



数年前の夏、近所の公園で猫と戯れていたことがある。
蝉が五月蝿く鳴く午前中、ある灰色の猫と長い間遊んでいた。その猫は随分と人なれしていて、なでると腹を見せて喉をならした。
「また来るからね」
その日の夕方、再び公園に赴いたが何処にも猫は見当たらない。何処かに行ってしまったのだろう、と諦めて帰ろうとすると、一人の老女が公園に入ってきた。と、同時に何処からともなくあの灰色の猫が飛び出してきて、老女の足にまとわりつき始める。
老女は、いつもこの公園の野良猫たちに餌をやっているらしい。

たった数時間で仲良くなったなどとは思わなかったが、空虚感に襲われたことは言うまでもない。
つまり、猫は生意気で非常に現金な動物だ、ということだ。

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7月3日

「彼女は、  は面白いね、って言っていたよ」
「ああ、善かった。それくらいですんでいるんだね!」
軽い皮肉を込めて言う。
(それは彼女と自分に対してだ。その時は白々しいとは思わなかったのだが、後々考えると酷い話である)




アートはいつも海を待っている。
誰もいないこの箱の何処かで、下校時刻の過ぎた人気の無い箱の中で、海が自分を探しに来るのを、待っているのだ。

東と帰ったあの日、残された靴を見て海が何と言ったのかアートは知らないし、海がアートのシャドウ・ボックスを持っていることは、彼女だけではなく他の人間も知るまい。


『海は絶対に拒絶はしないよ。彼女が私にそうしないのと同じ理由で』


アートはその意味を考えたのだろうか?(否、ジョーカーの話を聞く限りでは考えてはいまい)
考えるべきだ。他人のことならよくわかるだろう。私の行動なら非難も出来るだろう。人の気持ちが分かるまっすぐなアートなら、気づけるだろう。

私のその言葉を免罪符にしようとは思わない。

海は彼女のようにすれた人間ではないし、近い人間でもない。他人行儀。アートはそれゆえに傷付くのだろう。しかしそれは致命傷にはなるまい。海は決定的に大人で、彼女は子供なのだ。



『私は 君の優しさに 甘えている気がする』

気がする、ではなくてそれは事実だとあの時も知っていた。彼女がそれに対する返事を返さなかったことも知っていた。
しかし、彼女がその意味を軽視していたことには、気づけなかった。

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嘘吐きと偽善者の逃避行④

「みかなちゃん、君は私の名前を覚えていますか?」
彼女は突然そんなことを言った。記憶している彼女の名前を言うと、「そう、それを忘れないで下さいね」と呟き、寂しそうに笑った。

それを紙にでも書き留めておけば良かったのだ。
彼女の質問に重大な意味がこめられていると夢にも思わなかった私は、それを死ぬほど後悔している。

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嘘吐きと偽善者の逃避行⑤

後ろから誰かが抱きついていた。誰かの手は首に回されていて、鼻を啜る静かな音が聞こえる。




目が覚めると、目の前で彼女が泣いていた。
「おはようございます。みかなちゃん」
ただ、声は怖いくらいに落ち着いていて、私は訳の分からない恐怖感に襲われた。
「みかなちゃん、私の名前を覚えていますか?」

私は答えられなかった。
彼女はやっぱり、という顔をして、「みかなちゃん。私では夢の続きにはなれなかったのです」。

そう言うと私に抱きついて、首筋にがぶりと噛み付いた。
その瞬間、昼間の世界がぐらりと暗転し、彼女と私と、公園と、滑り台と、此の世界全てを真っ暗にした。




誰かが抱きついていた。
私はその様子を何処かから見ていた。
誰かは泣いていた。
よく見ると、抱きつかれているのは私ではなかった。

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嘘吐きと偽善者の逃避行⑥

目が覚めると、彼女はいなくなっていた。

「こんにちは、みかなちゃん」

その代わりに見知らぬ少女がいた。私より少し年上で、私と彼女と同じ制服を着ている。

「彼女はどこ?」
「あの子はもういないよ」
「しんだの?」
「生きてるよ。私の心の中でね。」

思わせ振りににやにやとして言うものだから、私は少し腹が立った。それを見て少女は意外そうな顔をした。

「それよりも、なんでみかなちゃんはこんなところにいるんだい?」
「彼女に連れ出された」
「何日前に?」
「二週間くらい前」
「その間、補導されなかったの?義務教育中でしょ?二人とも」
「そうだけど。されなかった。偶然だよ。」
「新聞を見た?ニュースを見た?記事にならなかったの?」
「ならなかった。多分、学校が揉み消したって彼女が」
「ずっとこの公園にいたの?二週間も?誰にも、何も言われなかったの?」
「言われなかった」
「二週間、何を食べて生きていたの?お金はどこから出たの?」
「忘れた」
「ここにどうやって来たの?電車?バス?」
「忘れた」
「ねえ、ここに来るまでに誰にもすれ違わなかったの?」
「……忘れた」

「違うよ、みかなちゃん。忘れたんじゃなくて分からないんだ。知らないんだよ、君は」

「あなたは、誰?」

「君は、あの子の名前を覚えている?それが、答えだよ。」

少女は私の頭を撫でた。

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